東北大と九大が鉄不足による貧血病態のメカニズムの一端を解明

2017年03月09日 07:43

 赤血球は酸素を体中の細胞へ運ぶ役割を持つ重要な細胞で、私たちの体の中で最も多い細胞である。赤血球は体の総細胞数の約7割を占め、1日あたり約 2000億個もの赤血球が新しく産生されているという。赤血球の中で酸素と結合するのがヘモグロビンという鉄を含むタンパク質で、生体内の鉄の約70%はこの赤血球のヘモグロビン産生に利用されている。食事などから摂取される鉄分はごくわずかであるため、多くの鉄は体の中で再利用されているが、出血などにより体の中の鉄分が大量に失われると鉄欠乏性貧血が引き起こされる。

 例えば、月経のある女性を中心に、日本でも未だに多くの方が鉄欠乏性貧血に罹患している。これまで、鉄欠乏性貧血の原因は単なる材料不足(鉄不足)と考えられてきたが、必ずしも全ての女性が鉄欠乏性貧血を発症するわけではないことから、単なる鉄不足のみでは疾患を十分に説明できていなかった。

 今回、東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の小林匡洋研究員、加藤浩貴研究員、張替秀郎教授、五十嵐和彦教授らのグループは、九州大学生体防御医学研究所の佐々木裕之教授らとの共同研究により、鉄欠乏性貧血の病態の一端を解明した。

 研究グループは、鉄欠乏性貧血モデルマウスから採取した赤芽球を使って、網羅的DNAメチル化解析及び遺伝子発現解析を行った。その結果、鉄欠乏状態ではDNA メチル化修飾及び遺伝子発現が広範囲に渡って変動していることを明らかにした。また、ヘムに応答する転写因子Bach1が、鉄欠乏により合成が低下するヘムの量に対応してグロビンの合成を低下させることでヘムとグロビンのバランスを調整している事を突き止めた。

 これは、鉄欠乏が赤芽球の遺伝子発現変動を引き起こすという新しい発見であり、鉄欠乏状態に応答してヘムとグロビンのバランスを遺伝子発現レベルで調整する転写因子の存在を示す新たな知見だという。鉄欠乏状態や鉄欠乏性貧血は、先進国と発展途上国とを問わず未だ人類が直面している重要な課題である。今回の発見は、この鉄欠乏性貧血の病態の一端を明らかにしたものであり、同疾患及び鉄の生体内での機能のより詳細な理解へとつながることが期待される。また、近年注目されている鉄剤の投与によっても改善しない鉄欠乏性貧血(鉄剤不応性鉄欠乏性貧血)の新たな診断法や治療法の開発につながることが期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)