10月30日、医薬品大手7社の4~9月期決算が出揃った。全般的に国内販売の不振を円安の効果が出た海外、特に北米での主力薬の好調さでカバーするという傾向が続き、利益の面では研究開発費、海外での新薬投入に伴う販促費、訴訟関連費用などのコストがかさみ、思うように利益を残せなくなっている。それでも期待の大きい新薬を開発したニュースも入っており、研究開発投資は決してムダにはなっていない。
■海外で売れる数本の柱の商品に頼る傾向
4~9月期の実績は、武田薬品<4502>は売上収益6.2%増、営業利益は5.4%減、税引前利益は9.8%減、四半期利益は11.3%減、最終四半期利益は11.5%減という増収、2ケタ減益。中間配当は前期と同じ90円だった。高血圧症治療薬「ブロプレス」の特許が切れて後発医薬品におされた国内市場は4%減。一方、北米市場では主力の血液がん治療薬「ベルケイド」、潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」が好調で、円安効果も加わって売上を大きく伸ばした。利益面では研究開発費、北米での販促費用の増加に加え、前年同期に不動産売却益を計上した反動が出て減益となった。
アステラス製薬<4503>は売上高15.7%増、営業利益28.5%増、税引前四半期利益41.6%増、最終四半期純利益47.1%増の2ケタ増収増益。中間配当は前年同期比2円増の16円だった。国内では新製品の一部で売上が計画未達だったが、海外では前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の売り上げが想定以上で、北米市場では過活動ぼうこう治療薬「ベタニス」なども好調だった。為替の円安効果も寄与した。
第一三共<4568>は売上収益11.4%増、営業利益61.0%増、税引前利益46.1%増、四半期利益38.0%増、最終四半期利益40.5%増の2ケタ増収増益。中間配当は前年同期比10円増の40円とした。国内市場は伸び悩んでいるが、北米市場で次期主力薬とみなしている抗凝固剤「エドキサバン」や貧血治療薬「インジェクタファー」の販売が伸び、為替の円安も収益を押し上げた。
田辺三菱製薬<4508>は売上高1.4%増、営業利益24.5%増、経常利益22.2%増、四半期純利益10.4%減の増収、最終減益。中間配当は前年同期から2円増の22円とした。国内市場では水痘(水ぼうそう)ワクチンの販売が好調で、海外市場では糖尿病治療剤「インヴォカナ」、多発性硬化症治療薬「ジレニア」のロイヤルティー収入が伸びている。
大日本住友製薬<4506>は売上高11.6%増、営業利益41.0%増、経常利益37.7%増、四半期純利益12.4%増で、2ケタ増収、2ケタ増益の好決算。中間配当は9円。四半期純利益は減益の予想だったが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療剤としてアメリカで開発中の「SUN-101」に関する条件付対価の公正価値が見直され費用の戻し入れが発生したため一転、2ケタ増益で着地した。国内は後発医薬品におされて特許切れ医薬品が落ち込んでいるが、北米市場では主力の抗精神病薬「ラツーダ」などが引き続き好調で、利益率が高いので増益にも寄与している。新薬の研究開発の進捗状況の遅れが販管費の抑制につながり増益幅が拡大したという側面もある。
エーザイ<4523>は売上収益2.4%増、営業利益0.3%増、税引前利益6.2%増、四半期利益6.0%増、最終四半期利益5.9%増と、いずれも1ケタだが増収増益。中間配当は前年同期と同じ70円とした。抗がん剤「エリブリン」、甲状腺がん治療薬「レンバチニブ」、抗てんかん剤「Fycompa」、肥満症治療剤「ベルヴィーク」の自社開発「グローバル4ブランド」の販売は海外で好調だったが、国内市場では売上減が続いている。
塩野義製薬<4507>は売上高6.5%増、営業利益49.4%増、経常利益10.7%増、四半期純利益120.2%増(約2.2倍)の増収、大幅増益。最終利益は4~6月期の減益から2倍を上回る増益に変わった。前年同期の減益、営業減益、最終大幅減益と比べると業績は大きく回復している。中間配当は前年同期比4円増の28円とした。主力の戦略3品目、抗うつ剤「サインバルタ」、高脂血症治療薬「クレストール」、高血圧治療薬「イルベタン」の販売は依然好調で国内売上高は1.9%増。海外では閉経後膣萎縮症治療薬「オスフィーナ」の販売が確実に伸び、海外売上高は6.7%増だった。出資した英国ヴィーブ社に製造・販売権を供与中の抗HIV(エイズウイルス)薬「テビケイ」「トリーメク」の売れ行きも想定以上で、ロイヤルティー収入は前年同期比32.4%増と大幅に増加している。最終利益の大幅増の要因は前年同期に過年度法人税を計上した反動。
■進捗率が良くても通期では不確定要素がある
2016年3月期の通期業績見通しは、武田薬品は売上収益2.4%増、営業損益は1050億円の黒字、税引前損益は1150億円の黒字、最終当期損益は680億円の黒字と黒字転換を見込み、予想期末配当は90円、予想年間配当は180円でどちらも前期と同じで修正はなかった。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は79.9%と大きいが、下半期にコストが集中的に出る傾向があるので、通期見通しは控えめ。それでも前期に計上した訴訟関連の一時的な営業費用が消えるため最終黒字に転換する見通し。
アステラス製薬は海外売上高の増加、円安効果を見込んで売上高を220億円上積みして9.2%増から11.0%増に上方修正、営業利益を90億円減らして28.2%増から23.3%増に下方修正、税引前利益を30億円上積みして26.0%増から27.6%増に、最終当期純利益を20億円上積みして25.1%増から26.6%増に上方修正した。予想期末配当は前期と同じ16円、予想年間配当は前期から2円増の32円で修正はなかった。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は59.8%。国内売上は1%増にとどまるが、「イクスタンジ」「ベタニス」の2本柱がある海外売上高比率は64%弱で前期から約4ポイント上昇する見込み。円安効果も出る。利益面では研究開発費を15%積み増した他、固定資産の減損損失も見込んでいる。株式売却益が最終利益を押し上げる見通し。11月2日からの300億円上限の自社株買い実施も発表した。
第一三共は売上収益を300億円上積みして3.3%増を6.6%増に上方修正したが、営業利益61.2%増、税引前利益43.9%増、最終当期利益76.7%減は修正なし。予想期末配当は前期と同じ30円、予想年間配当は前期比10円増の70円で変わりない。売上高上方修正の理由は、北米で特許が切れた高コレステロール血症治療薬「ウェルコール」の後発薬の発売が想定より遅れ、収益機会が長続きするため。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は94.2%と大きいが、前期に計上したインドの子会社ランバクシー・ラボラトリーズ(売却済み)の株式評価益がなくなる上に、アメリカで営業部門の従業員を半減させる営業体制見直しに伴うコストの増加を見込んで、最終減益の見通しは修正していない。
田辺三菱製薬は9月に業績を上方修正しており、売上高0.7%増、営業利益22.1%増、経常利益19.7%増、当期純利益16.4%増の通期業績見通しも、前年同期と同じ予想期末配当22円、前年比2円増の予想年間配当44円も修正しなかった。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は63.3%。開発中の自己免疫疾患治療薬でアメリカのバイオジェン社とライセンス契約を結んだことで得る一時金6000万ドル(約72億円)や、海外からロイヤルティー収入が寄与する見通しで、最終利益は2期ぶりに過去益を更新する。それでも国内では事業再編を進めており、45歳以上を対象に数百人程度の希望退職を募集すると発表した。
大日本住友製薬は7月に通期の売上高を5.6%増から8.0%増に上方修正したが、4~9月期決算と同時に営業利益を16.0%増から24.6%増に、経常利益を13.6%増から22.2%増に、当期純利益を16.5%増から29.5%に、それぞれ上方修正した。営業利益、経常利益、当期純利益はそれぞれ20億円上積みする。予想期末配当9円、予想年間配当18円は変わらない。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は66.07%だった。売上高は国内の低調を北米で補って増収の見通し。利益を上方修正した理由は、「SUN-101」に関する費用の戻し入れにより、通期で予想される販売費及び一般管理費が20億円減少すると見込まれるため。
エーザイは売上収益1.5%増、営業利益62.3%増、税引前利益65.4%増、当期利益37.9%減の通期業績見通しも、前年と同じ75円の予想期末配当、150円の予想年間配当も修正はなかった。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は40.8%。グローバル4ブランドの販売は上半期で全世界で43%増と順調。北米市場だけでなく「成長3リージョン」(中国、アジア、ヨーロッパ/中東/アフリカ/ロシア/オセアニア)の市場でもどれだけ伸ばせるかで通期業績の着地点は変わってきそうだ。
塩野義製薬は通期業績見通しを上方修正している。売上高は55億円積み増して10.0%増、営業利益は55億円積み増して54.9%増、経常利益は85億円積み増して13.0%増、当期純利益は70億円積み増して33.9%増に修正した。予想期末配当、予想年間配当もそれぞれ4円増配で上方修正し、期末配当は前期比4円増の32円、年間配当は前期比8円増の60円とした。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は36.2%だが、ヴィーブ社の配当金は10~12月期以降に計上される見込み。約26億円を投資して大阪府摂津市に製剤工場を建設して2016年度をメドに稼働させる予定で、主力の抗うつ剤「サインバルタ」の生産能力を20億錠に倍増させる。10月には2018年発売をメドに「1日で治す」画期的なインフルエンザ新薬を開発すると発表し、話題になった。(編集担当:寺尾淳)