シャープ 大企業の責任

2012年11月10日 11:00

 「シャープから何の連絡も入ってこない」。
 事業撤退で地域の主要雇用の場がどうなるのか。「地元工場にいた正社員は何人で、期間雇用やパート労働者はどうなるのか」「用地はそのままなのか、売却までいくのか。用地がそのままなら、固定資産税は入ってくるが」。地元自治体はマスコミ報道以外に情報がなかなか入ってこない状況に困惑ぎみ。

 太陽電池生産のシャープ工場のある奈良県の自治体。「県とも情報交換しながら対応していくことになっているが、肝心のシャープさんからは具体的なことが決まるまで情報が入ってこない」。

 地元自治体としては、影響が大きいだけに検討されている方向性だけでも事前に情報がほしいという思いがある。

 シャープは再建計画で業績不振の太陽電池事業の絞込みをする。国内の4工場のうち、葛城(奈良)、八尾(大阪)、富山(富山)の生産設備は売却し撤退。堺(大阪)に集約する方針。

 人員削減も社内で希望退職2000人を11月1日から募った。14日までの受付期間を待たず、9日までにメドがたった。今月1日発表した2013年3月期の業績予想で純損益4500億円の赤字と2年連続の巨額赤字見通しに、見切りをつけ再出発をめざす社員も予想以上に多かったということかもしれない。彼らは12月15日に退職の予定だ。

 シャープが削減したい人員は5000人。残りは定年退職など自然減や拠点縮小での海外社員削減などで調整できるらしい。

 巨大企業に育ったシャープには全国にグループ下請け企業が1万2000社存在する。帝国データバンクが10月末に実態調査の結果を公表したところでは、4400社が直近決算で減収になった。グループ下請け企業の総従業員は67万8000人。

 かれらの雇用が最も懸念されている。「ピーク時、売上全体の半分以上をシャープ関連に依存し、受注急減で深刻な影響を受けているところもある」(帝国データバンク)。人員削減に踏み切らなければ生き残れない可能性もあり、依存率の高かった分だけ、苦境に立たされている。リスク分散をしていなかった経営者の判断ミスではあるが、一概にそうとばかり言えない。

 だからこそ、シャープは自社再建の具体的方針や内容について、その影響度を把握し守秘義務をつけたうえで、自社工場のある自治体やグループ下請け企業に最大限、事前の情報提供をし、当事者が早期対応できるよう配慮することが求められている。

 「シャープグループの業績動向や再建の行方次第で下請け先の倒産増加が予想される」と警告する帝国データバンク。「多数の雇用を抱える地域経済へのさらなる影響拡大が懸念される」と今後の見通しについても注視の必要をあげている。

 大企業は裾野で膨大な人々の暮らしに直接かかわりを持つ責任を忘れず、迅速、適確な判断を行う責任を常に認識していてほしい。(編集担当:森高龍二)