矢野経済研究所では、2015年度の物流17業種総市場規模は、前年度比 99.1%の20兆4,110億円と推計した。国内は消費税増税の反動減から徐々に回復し、堅調に推移している。インターネット通販を中心とした通信販売、医薬品・医療機器分野、およびコンビニエンスストアや食品スーパーチェーンの温度管理の必要な低温食品分野の物流サービスが好調であった。一方、海外需要が物流 17 業種総市場に影響を及ぼす割合が高くなってきている。2015 年度は海外需要がやや低迷していることが影響し、前年度割れとなった。
2016年度の国内物流市場全体は前出の分野を中心に堅調に推移しているが、海外需要については中国や東南アジアの経済成長の鈍化や欧州経済の低迷の長期化、また海運を始めとする運賃市況の低迷などの影響により、同年度の総市場規模は前年度比 96.0%の19兆5,970億円を見込む。国土交通省のデータによると、国内では貨物量が減少傾向にあるが、2017年度以降は、東京オリンピック・パラリンピックに向けた内需の拡大により引き続き堅調に推移すると予測する。一方、海外は各国・地域における需要動向が見通しづらい状況にあるが、世界情勢や世界各国の経済状況などを考慮すると、2017年度の物流17業種総市場規模は20兆1,755億円、2018年度は20兆8,475億円と緩やかな拡大基調を予測する。
「モノを運ぶ」という物流は、近年その業務領域を拡大させている。食品分野における食品加工、自動車部品の組み立て、医薬品の包装、アパレルのラベリングなど、荷主の要望に応えるかたちで、物流の業務範囲は拡大し続けている。少子高齢化による消費物量の減少や国内製造業における生産拠点の海外移転に伴い、国内の貨物量は全般的に減少傾向にあるが、業務領域の拡大は物流市場に好影響を与えており、拡大基調の一要因となっている。
一方、物流事業の専門性はますます高度化しつつあり、且つ複合的な物流サービスの展開が必要となっている。「トラック輸送」を例にとると、多様化する荷主(生産者)の需要に応じた柔軟な積載体制の構築から倉庫保管業務、また国際物流への対応までの業務が求められている。こうしたなか、物流事業の業種を超え、専門性を追求するための企業合併や買収、業務提携や、効率的な物流を担うための情報の一元化など通じた物流サービスのプラットフォーム化といった改革も進んでいる。また、昨今では社会問題として表面化している人手不足という問題がある。今後は、IoT(Internet ofThings)や人工知能(AI:Artificial Intelligence)などを活用した省力化・自動化といった部分的支援が一層進展することで、人手に頼らない「スマート物流」に変革する兆しが徐々に見られるようになるものと考えるとしている。(編集担当:慶尾六郎)