iPS 細胞の作製にはハイブリッドな細胞代謝が重要

2017年05月11日 06:58

 京都大学 CiRAの曽根正光研究員、山本拓也講師らの研究グループは、マウスの繊維芽細胞に初期化因子Oct4、Sox2、Klf4 とともに遺伝子Zic3とEsrrb を導入すると、Zic3とEsrrbが細胞代謝を制御し、相乗的に初期化の効率を上げることを発見した。

 これまで、初期化因子を導入すると、体細胞からiPS細胞へ初期化することは確認されていたが、初期化の効率は非常に悪く、多くの細胞はiPS細胞にならずに残っていた。これは、iPS細胞へと細胞が変化するときに、初期化因子の働きが互いに拮抗し合う可能性があると山本講師らは考えた。そして、その拮抗は酸化的リン酸化から解糖系へと細胞代謝が変わる過程で起きていると考えた。よって、酸化的リン酸化と解糖系の細胞代謝のバランスが初期化の鍵であると考えられたが、そのバランスを調整するものが何かは解明されていなかった。

 そこで研究グループは、細胞が初期化されるときに重要である遺伝子の候補を十数個に絞り、初期化因子Oct4、Sox2、Klf4 (OSK)とともに、初期化が起こると発光するマウスの繊維芽細胞に導入した。

 すると、全ての候補遺伝子単体ではあまり初期化に影響がなかったが、Zic3とEsrrbの組み合わせのときだけ発光する細胞が劇的に増えることが分かった。これにより、OSKとともに、Zic3とEsrrbを組み合わせることで初期化が促進されることが分かり、二つの因子がお互いをパートナーとして初期化で重要な働きをしている可能性があることがわかった。

 Zic3とEsrrbという二つの因子は、共同で解糖系を促す。一方、Zic3は酸化的リン酸化を抑制し、逆にEsrrbは酸化的リン酸化を活性化する。また、Esrrbによる酸化的リン酸化の活性化は初期化に重要であることがわかった。研究では、Zic3とEsrrbの組み合わせが適切な細胞代謝のバランスを調整する鍵となり、iPS細胞を効率的に作製する上で重要であることを突き止めた。(編集担当:慶尾六郎)