九大らが次世代有機EL用発光材料の発光メカニズムを解明

2017年05月22日 07:09

 有機ELは、有機分子が電流によってエネルギーの高い励起状態になり、それがエネルギーの低い基底状態に戻る際に発光する現象を利用している。次世代型の有機 EL素子用の発光材料として注目される熱活性化遅延蛍光(TADF)は、室温の熱エネルギーの助けを受けて有機EL分子が放出する蛍光のことで、現在の有機ELに不可欠な希少金属が不要なことから低コスト化、高効率化の切り札とされている。TADF 発光には分子の二つの励起状態が関わり、それらの状態間のエネルギー差ΔEST が室温の熱エネルギー近くまで小さいほど、発光効率が高いと考えられている。しかし、室温の熱エネルギーでは TADFの発光が困難なはずの分子でも、100 %に近い高い発光効率を示す事例が報告されるようになり、発光メカニズムの詳細な解明が求められていた。

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)分析計測標準研究部門ナノ分光計測研究グループ 細貝拓也研究員、松﨑弘幸主任研究員と九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター中野谷一准教授、安達千波矢教授らは共同で、TADFを出す分子(TADF 分子)の発光メカニズムを解明した。

 今回、両者は九大が設計・開発した有機分子について、ポンプ・プローブ過渡吸収分光法を用いてそれらの発光メカニズムを詳細に解明すべく研究を行った。特に、これまでの研究では見過ごされてきた各分子の一重項状態と三重項状態の種類(励起種)とエネルギーに着目して検討を行った。

 今回用いた 8 種類の分子について有機 EL の発光量を調べたところ、4CzIPNと2CzPNでは、九大が2012年に報告した通り、ΔESTが室温での熱エネルギー程度と小さい4CzIPNでは発光効率が高く、ΔESTが大きい2CzPNでは発光効率が著しく低い、すなわちΔESTとTADF の発光効率の間に相関が見られた。しかし、CzBNと称する6種類の分子群ではΔESTがTADF を示すのに困難なほど大きな値(室温での熱エネルギーの約10倍)を示すにも関わらず、para-3CzBN と4CzBN、5CzBNはTADFを発光した。これらの結果に基づいて TADF の有無で分子を分類すると、TADFを強く発光する分子群は全てパラ体であり、この分子構造がTADFの発光に関与していることを示唆している。

 そこで、その8種類の分子に超短パルスレーザー(励起光)を照射して励起したのち、その状態の時間変化を過渡吸収分光法により観測した。その結果、TADF を強く発光する分子群にのみ特徴的な励起状態が生成していることが判明した。すなわち、TADF を強く発光する分子群(パラ体)では、プラスの電荷であるホールが分子内で自由に移動できる「電荷非局在励起種」が生成されたのに対して、TADFを発光しないか弱く発光する分子群では、ホールが自由に移動できない「電荷局在励起種」や「中性励起種」しか観測されなかった。つまり、TADF の発光には電荷非局在励起種が関係していることを示している。この電荷非局在励起種は、赤外光領域の過渡吸収分光測定技術によって初めて観測されたとしている。(編集担当:慶尾六郎)