働く人のメンタルヘルス不調は増加傾向にあり、深刻な社会問題となっている。厚生労働省の行った調査によると、現在仕事や職業生活で強いストレスを感じている労働者の数は約6割で推移しており、労働環境の改善に対する企業の動向にますます注目が集まっている。2015年12月、労働衛生安全法の一部改正を受けてストレスチェックの実施が義務化されてから2年が経過し、企業側もメンタルヘルスケアに対して以前より高い意識を求められるようになってきている。
そんな中、鳥取県智頭町では豊富な天然資源を活用した企業向け研修事業に力を入れており、その中でも企業を誘致した体験型の森林セラピーに注力している。近年森林セラピーは科学的根拠に裏付けされた森林浴効果があるとして、メンタルヘルス不調の改善効果が認められ各企業からも注目されていた。近年の調査研究の進展によって森林浴効果に関する信頼性のあるデータが整ってきており、そこに注目した同町は町を上げての企業誘致に名乗りを挙げた。
森林医学を研究する千葉大学環境健康フィールド科学センターによると森林浴効果とは予防医学的な効果であり、強すぎる緊張状態やリラックスした時に高まる副交感神経活動が昂進するなど生理的にリラックスすることで低下していた免疫機能の改善が見込まれている。同センターの行った研究では、森林内では都市部と比べ唾液の中のコルチゾールというストレスホルモンの濃度が減少し、心拍数が低下する効果などもわかっている。
また、植物はフィトンチッドと呼ばれる自浄作用や殺菌作用を含んだ揮発性物質を大量に放出していて、これは本来植物自身の成長促進や生命維持の為の現象なのだが、人間に対しても高い心身回復効果として作用する。これらを複合的に五感を使って感じることでストレス軽減効果はより高くなる。鳥取県智頭町では短期間で高いリラックス効果を得る事が出来るよう2泊3日などのプランを用意して民泊や間伐体験などの企業誘致も積極的に行っている。
今後は労働者自身のセルフケアや産業カウンセラーなどの医療との連携はもちろん、企業側の仕組みづくりとして人間の本来持つ生理的機能を理解し活用していく事も鍵となりそうだ。長期的に安定して働きたい労働者と労働力の損失を防ぎ生産性の向上を目指す企業双方にとって有益となるよう、森林医学研究が今後どう活用されていくのか注目したい。(編集担当:久保田雄城)