内閣府が発行している「平成29年版 高齢社会白書」によると、2065年には総人口に占める75歳以上人口の割合は25.5%、つまり約4人に1人が75歳以上の高齢者となると推計していることからも、介護職員の不足問題がさらに深刻化するのは避けられないだろう。
株式会社タムラプランニング&オペレーティングが全国322自治体の第6期介護保険事業計画や同社が保有する最新の介護施設等のデータを基にとりまとめた「都道府県・市区・エリアデータ集」によると、介護施設等の需要量を要介護2以上と仮定すると、2020年には、全国の需要数373.4万人に対して、その時点の介護施設等の供給数は192.5万人分に留まり、180.9万人分の受け皿が不足すると予測している。政令市別では、横浜市と大阪市が2020年時点で5万人分以上不足と突出しており、名古屋市の3万3千人、京都市2万7千人と続く。この資料だけを見ても、全国の都市部において、特養や特定施設等の需要や居宅サービスにおけるマンパワー確保が、今後一層求められることになるのは明白だ。
実際、すでに老人ホームのベッド数が足らないといわれている。介護や医療的なケアなどのサービスが受けられ、国などから補助金が出るため、年金の範囲内で入ることができる「特別養護老人ホーム」の全国のベッド数は56万床余り。しかし、入居待ちは推定52万人以上もいる。ところが、国が委託調査を行った結果、ベッドの稼働率は96%で100%に満たないことが判明した。入りたくても入れない高齢者が52万人もいる一方で、なぜベッドに空きがあるのか。
もちろん、この「空き」には、入院や死亡による一時的なものや、入居者は決まっていても実際にはまだ入居してないというケースなども含まれているが、それだけではない。たとえベッドが余っていても、必要な人数の介護職員を確保できないため、定員いっぱいまで受け入れることができない施設も多いというのだ。今の時点で介護職員が不足しているのであれば、この先も高齢化が加速していく中で、この状況が劇的に好転するとは考えにくい。内閣府が発行している「平成29年版 高齢社会白書」によると、2065年には総人口に占める75歳以上人口の割合は25.5%、つまり約4人に1人が75歳以上の高齢者となると推計していることからも、介護職員の不足問題がさらに深刻化するのは避けられないだろう。
入居を希望する高齢者側から見れば、施設が少ない。しかし、いくら施設を増やしたところで、稼働できる介護職員がいなければ、空き部屋が増えるだけ。介護職員の人数から考えると、すでに施設の数は飽和状態なのだ。この矛盾を解決する方法はないものだろうか。
住宅業界でも、これからの高齢化社会にむけて、さまざまな取り組みが始まっている。例えば、アキュラホームは、2014年に設立した住生活研究所の活動の一つとして、京都大学の髙田光雄名誉教授ら6人の委員で構成する「住みごこち、住みごたえ、住みこなし推進研究会」を発足し、つくり手と住まい手が協力し合って、これからの住宅の在り方についいての研究を続けているが、2017年3月に行われたシンポジウムでは、まさにこの高齢化社会の問題についても取り上げられた。
同委員の一人であり、株式会社社風代表取締役の大久保恭子氏は、パネルディスカッションの中で、高齢者は身体能力の低下や関係性の喪失はあるものの、学習能力は衰えないことを指摘。ゴミ問題や医療問題など実際の暮らし方とともに、「最期まで自宅でひとり暮らし」を貫くための自立を支援する住宅プランを提示している。
できることなら最期の時まで、住み慣れた我が家で暮らしたいと希望する人は多いだろう。この先、施設への入居がさらに困難になることが予想される中、これらの希望と課題の両方を解決するカギは、高齢者でも安心して暮らせる「住みごこち」の良い住宅にあるのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)