IoT(モノのインターネット)の発展やウェアラブルデバイス、モバイル端末の急増に伴って、「不揮発性メモリ」への関心が急激に高まっている。
不揮発性メモリとは、コンピュータに使われるメモリの一種で、電源を供給しなくても記憶を保持するメモリの総称だ。昔からあるROMやフラッシュメモリなどもこれにあたる。
現在、パソコンなどで使われている主記憶(メモリ)はDRAMやSRAMなどの揮発性メモリと呼ばれるものだ。揮発性メモリは外部からの電源供給が遮断されると記憶が保持できないので、置かれたデータは電源と一緒に消えてしまう。
でも、どうしてコンピュータの主記憶に、不揮発性メモリではなく揮発性メモリが使われてきたのだろう。その理由はいくつかあるが、まず不揮発性メモリは揮発性メモリに比べて書き換え速度が遅いという難点が挙げられる。また、書き換え耐性についても不安定であるため、高頻度なデータ書き換えを必要とする主記憶用途には不向きとされてきたのだ。
ところが昨今の技術革新によって、不揮発性メモリであっても、高速で高頻度の書き換えにも耐え得る製品が登場し始めている。中でも注目されているのが、FeRAMの名で知られる強誘電体メモリだ。
強誘電体とは、電圧を加えると物質内の自発分極の方向を自在に変化させ、電圧をかけなくてもその分極方向を持続させることのできる誘電体のことで、FeRAMはこれを記憶素子とする不揮発メモリなのだ。FeRAMはDRAMに似た構造をもっており、EEPROM やフラッシュメモリなど、他の競合する不揮発性メモリに比べて「高速データ書き換え」「高書き換え耐性」「低消費電力」という点で非常に優れている。
日本では、FRAMの商標を持つラムトロン・インターナショナル社とライセンス契約を結ぶ富士通などが力を入れていることで知られているが、他の電子部品企業においても実用化に向けての開発が加速している。
電子部品大手のローム傘下のラピスセミコンダクタも2017年10月27日付で、1.8V から 3.6V の広範囲で 40MHz 高速動作を実現し、電力が不安定な環境下でも高速データバックアップが可能な1M ビット FeRAM「MR45V100A/MR44V100A」の量産開始を発表している。
同製品は、高速・高頻度なログデータ取得や緊急時の高速データバックアップが必要とされる、スマートメータや計測機器、医療機器、金融端末などに向けて開発されたもので、主にIoT 機器への信頼性向上に役立ちそうだ。
さらに同製品は消費電力を抑えるためにスタンバイモードを改良すると同時に、同社の FeRAMとしては初めてスリープモードを搭載し、1M ビットFeRAMで業界最小クラスのスタンバイ電流 10μA(平均)とスリープ電流 0.1μA(平均)をそれぞれ実現した。これにより、電池駆動時間が重要視される決裁端末やデータロガーなどのハンディターミナルやモバイル機器・端末への展開も視野に入れているという。
不揮発性メモリの開発については、他国に比べて日本企業が技術的にも先に進んでおり、信頼性も高いといわれている。また、FeRAMなどの不揮発性メモリが台頭して主記憶として実用化されれば、主記憶と補助記憶の境目がなくなって、コンピュータの概念も大きく変わるだろうと推測されている。
近い将来、メモリの進化とともに、日本の電子部品企業も大きな転機を迎えることになりそうだ。(編集担当:藤原伊織)