気象研究所の研究グループは、このまま政策的な地球温暖化(以下、温暖化)の緩和策が行われず、最悪のシナリオで進行を続け、21世紀末に地球上の平均気温が現在よりも3度以上高くなった場合、日本の南海上からハワイ付近およびメキシコの西海上にかけて猛烈な台風が増える可能性が高いという研究結果を発表、世界で初めて温暖化が台風に与える影響を海域ごとに明らかにした。
これまで気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 第五次評価報告書では、温暖化の進行とともに地球全体での台風の発生数が減少または実質的に変化しないこと、個々の台風の最大風速や降水量が強まる可能性が高いことが示されている一方で、猛烈な台風の数については、地球全体として数が増加するのか、減少するのか、また海域ごとにどのような変化傾向があるのかについて、既存の気候シミュレーションデータベースでは精度の良い結論を導き出すのは困難といわれていた。
天候予測は一般に、大気自身の持つ性質、観測データの不足、数値予報モデルの限界などから不確定さが高いといわれている。そんななかで、予測に伴う不確定さを考慮することで将来の予測を可能にする手法の一つがアンサンブル予報だ。今回採用されたこの手法は、ある時刻に少しずつ異なる初期値を多数用意するなどして多数の予報を行い、その平均やばらつきの程度といった統計的な性質を利用して最も起こりやすい現象を予報、誤差の拡大を事前に把握することが出来る。
将来気候予測についての不確実性を考慮したこれまでにない多数の高解像度地球温暖化気候シミュレーション実験結果をとりまとめた「地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(以下、d4PDF)」を活用、解析することで、世界でも例のない最大100にものぼる多数のアンサンブル実験を行う事が可能となった。アンサンブル実験を行うモデル数が10程度と少なかった従来と比べると、信頼性はかなり高まっているといえる。
温暖化に伴う自然災害の発生頻度を知ることは、温暖化への適応策を考える際に重要なことであり、台風情報のみならず災害リスク予測の精度向上に向けた活路を開く大きな可能性を「d4PDF」は持っている。現在「d4PDF」は、極端事象の発生頻度や強度の将来変化を解明する研究、将来の高潮や洪水に対する防災研究、農業や環境への影響評価研究等に活用されており、今後は過去の極端事象の要因分析、将来変化予測の不確実性の理解、影響評価研究などが飛躍的に進むことや、各省庁や自治体、産業界での温暖化適応策の策定が推進されることが期待されている。 (編集担当:久保田雄城)