米国や中国では、自家用車を利用して客を送迎する「ライドシェア」が普及している。このライドシェアの仕組みは、配車専用のアプリで客が送迎の予約や手配ができるという仕組みであり、海外ではごく当たり前の送迎サービスとして定着している。ただし、日本ではまだこうした仕組みは議論が始まったばかりであり、普及には程遠いのが現状だ。その理由となっているのが、道路運送法による規定である。この規定では、国土交通大臣の許可を得ることなく個人の自家用車を利用して営利目的で客を送迎することは法律違反と定めている。
法律で規制されているとはいえ、こうしたライドシェアが日本で行われた場合それを取り締まることはかなり難しい。予約から支払まですべて事前に済ませている状態で送迎をしていた場合には、現場で言い逃れができてしまうからだ。実際に、空港や観光地では中国人による無許可のタクシー営業「白タク」が問題となっているが、これもライドシェアの流れによるものだろう。主に外国人観光客を相手にするこの白タクは、日本の正規のタクシーと比較しても料金が割安で言葉も通じることから高い人気があるのだという。これらの白タクは既存のタクシー業界にとっては価格破壊につながることから反発を強めており、国側も安全性について問題視している。
こうした背景もあって、日本国内ではライドシェアの議論がなかなか進んでいない。日本は法治国家なので、法律で定められていないことを実行することは難しく、タクシー業界など各方面との調整も課題が多いためだ。とはいえ、いつまでも棚上げできない理由もあり、それが2020年の東京五輪である。政府は2020年までに外国人観光客4千万人という目標を掲げており、客の送迎についても高い需要が見込まれている。しかし、タクシー業界は高齢化が進み人材不足が深刻な問題となっている。
今のままの仕組みでは急増する外国人観光客に対応することは困難だという現実を直視し、もっと議論を展開させることが今後の急務だろう。もしも法律の規制が緩和されれば日本でもライドシェアとして参入する業者も増えてくるかもしれない。もちろんその際にはある程度の安全性が担保されていなければならないが、観光客への対応と業界全体の活性化を考えると必要なことといえるだろう。また、公共交通機関が衰退する地方でもこうしたサービスは新たなニーズとして生まれる可能性が高い。ただ反発や規制をするだけでなく、多角的な視点から考えてみるのも議論の切り口となるかもしれない。(編集担当:久保田雄城)