FIT終了でZEHはどうなる? 全国初「全住戸ZEH」の賃貸集合住宅が誕生

2018年03月18日 12:43

kanazawa

全国初となる“全住戸でZEH基準を満たす賃貸住宅”「ZEH21」(石川県金沢市)

 家庭用太陽光発電の買い取り期間が終了する「2019年問題」を控え、市場では「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」に対する関心が高まっている。

 FITによる余剰電力の買い取り期間が19年10月末で満期を迎える一般家庭は約50万件。期間終了後は売電価格が激減することが見込まれる上、売電できなくなる可能性もあるため、戦々恐々としている家庭も少なくないだろう。

 しかし、そもそも再生可能エネルギーの活用は売電が本来の目的ではなく、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料に依存しないことにある。温室効果ガスの発生抑制など環境の側面だけでなく、燃料資源のほとんどを海外に依存している我が国にとっては、経済的な意味合いも大きい。とくに昨今は、新興国の経済発展などを背景にエネルギー需要が世界規模で増大している。化石燃料の市場価格が乱高下するなど、エネルギー市場が不安定化している中、再生可能エネルギーの導入を進めることは、国の安寧を保つためにも重要な課題だ。

 先般、金沢市において積水ハウスが全国初となる“全住戸でZEH基準を満たす賃貸住宅”「ZEH21」を竣工したが、開発を担当した同社の常務執行役員 環境推進部長 兼 温暖化防止研究所長・石田建一氏も、売電やエコ以上の必要性を唱えている。

 集合住宅においては、住戸数に対して相対的に屋根面積が小さく、1戸あたりの太陽光パネルの設置面積が不足するため、国の定めるZEH基準を満たすことが戸建よりも困難とされており、国のZEH普及目標でも集合住宅は対象外となっているのが現状だ。

 積水ハウスの試算によると、集合住宅の1LDKでベース仕様の場合、ZEHに必要な太陽光発電量は一戸あたりおよそ3.7kW。しかし「ZEH21」では、全13戸において高断熱複層ガラスや高断熱サッシを採用するなど高い断熱性能を確保したうえで、高効率エアコン、高効率ヒートポンプ給湯機、節湯水栓、LED照明等の「省エネ」設備を採用し、エネルギー消費量を平均2.4kWにまで抑えることに成功した。その結果、日射量が少ない金沢でも全住戸でネット・ゼロ・エネルギーを達成している。

 同社では19年2月に名古屋市内で全国初の全住戸ZEHとなる分譲マンション「グランドメゾン覚王山菊坂町」の完成を予定しており、今後も分譲と賃貸の両方でより積極的にZEH仕様の開発を進め、これまでにない市場を創出し、社会への浸透を目指す。

 ちなみに、戸建てにおいても未だ国内のZEH比率は低く、大手ハウスメーカーでも20~30%程度に留まっている。消費者的にはやはり、価格が優先される場合が多いためであろう。また太陽光発電の買取価格の引き下げなどの報道によって、市場がトーンダウンしていることも現状としてある。それでも積水ハウスは「快適性向上等のZEHに住まうメリット」を訴求することで、2016年度のZEH比率74%と大手ハウスメーカーでも断トツの実績を誇っている。しかし、住まい手と建設する人が異なる賃貸住宅では、住まい手メリットを賃貸住宅経営メリットにつなげる必要があり、戸建て以上に普及が困難だ。それでも同社が賃貸住宅においてZEH化をすすめるのは、将来的な需要を見越してのことだ。いずれ賃貸住宅を探す人に、快適な住戸に住まうことのメリットが伝わり、またエネルギーを「売る」目的の創エネではなく、「使う」目的の重要性と必要性が認識されたとき、集合住宅市場でもZEH仕様の需要が伸び、資産的な価値も向上すると見込んでいる。

 また、2018年から政府による集合住宅におけるZEH支援制度の開始が予定されていることからもビジネスモデルとしての可能性も高く、マンション経営を目指すオーナーからの注目も集まりそうだ。(編集担当:藤原伊織)