昨今、グローバル化を推進する企業が増えている。一般的に企業のグローバル化や世界進出といえば、海外市場への参入や海外生産拠点の構築などがイメージされるだろう。しかし、海外の大学との国際的な産学連携も、企業にとっては重要なグローバル戦略だ。
海外の大学と連携する主な目的は、当該大学が所有する優れた研究能力や成果を利用し、事業に活かすことだ。しかし、効果はそれだけに留まらず、大学や研究者との関係を構築することによって、現地市場での人材の確保やアクセスの構築、現地政府などとの関係をより強固にするなど、戦略的なネットワーク形成にも及ぶ。
例えば、半導体・電子部品のローム株式会社は、中国・北京市の清華大学と10年以上にわたって良好な関係を築いている。両者は2006年4月に先端技術開発の為の共同研究、技術交流を進めるため、「包括的産学連携契約」を締結。「フォトニック技術を用いたバイオセンシング機構の開発」を皮切りにLSIや半導体素子、オプティカルデバイスやモジュール、バイオセンシングなど幅広いテーマに渡って共同研究や技術交流を行ってきた。2010年からは「清華-ローム国際産学連携フォーラム(TRIFIA)」も開催しており、先週5月18日には第9回目となるTRIFIA2018を共催。中国のインテリジェントコネクティッドカー開発の第一人者である清華大学 李克強教授や、日本のロボットベンチャー企業ZMPの谷口社長による講演のほか、AIや次世代自動車における最新技術動向について情報交換が行われた。
トヨタ自動車も2011年に北米の大学や病院、研究機関等と共同研究を行う「先進安全技術研究センター(Collaborative Safety Research Center、以下CSRC)」を設立しているが、6年目を迎えるにあたり、昨年5月には、「CSRC ネクスト」と称する次の5ヶ年計画では、バージニア工科大学、ミシガン大学、アイオワ大学、マサチューセッツ工科大学大学など6つの大学や研究機関と協力し、自動運転やつながるクルマの課題や可能性について集中的に研究を行うことを発表している。
NTTも2011年頃から積極的に海外の大学との組織的連携について模索を続けており、中国をはじめ、ベトナムやインドの教育機関と連携を進めている。今年1月にもNTTベトナムとNTT東日本、ベトナムの電気通信事業者であるVietnam Posts and Telecommunications Group(VNPT)と共同で、日本の教育ICTソリューションを使ったトライアルを開始するなど、ベトナムの初中等教育の改革に貢献するとともに、同分野へのサービス提供を目指している。
国際的な産学連携といっても、企業の事業分野、国、パートナーに選ぶ大学などによって、様々なかたちが考えられる。また、近年は先進国だけでなく、新興国の大学と共同研究を行う企業も増えている。それらの新しい産学連携によって、技術的な研究結果やイノベーションの創出だけでなく、これまでになかった市場の開拓も期待できるのではないだろうか。(編集担当:松田渡)