政府の原発対応姿勢。やはり深刻だ。除染作業にあたる業者へはもちろん、原発事業者への監視に目を光らせ、指導を強化することが必要だ。
国連人権理事会が任命した特別報告者の専門家3人が16日、東京電力福島第一原発事故による除染作業員に対する安全を守る対応を急ぐよう共同で声明を出した。
声明は作業員にホームレスなどが含まれている情報が寄せられているとしているほか、被ばくリスクや対策を正しく理解しないまま作業をしている恐れがあるとし「深く憂慮する」と指摘。「経済的困難から危険な作業を強いられるおそれも」懸念している。
「延べ数万人の作業員が被ばくなどの危険にさらされているという情報がある」とも指摘した。
NHKは特別報告者の声明に対するジュネーブ国際機関日本政府代表部のコメントを報じているが、それによると「政府として真摯に対応してきたにもかかわらず、特別報告者が一方的な情報に基づいて声明を出したことは遺憾だ」というもので「いたずらに不安をあおり、混乱を招くとともに、風評被害に苦しむ被災地の人々をさらに苦しめかねない」と特別報告者に抗議したという。
声明と政府のコメント。どちらが受け入れられるかと言えば、残念ながら、特別報告者の声明の方だ。
原発事故による被ばくが人のみでなく、自然界の野鳥や昆虫やイノシシやシカなど野生動物に与える影響を詳細に長期にわたって大規模調査することも求めたい。
今月6日に東京新聞朝刊読者の声欄(発言)に「役人も住まぬ被災地安全か」という見出しで、福島第一原発事故被災地で不動産業を営む59歳の会社役員の声が掲載された。
「安全だという国の役人も、事故を起こした東京電力の家族も住まない。廃炉作業を行うゼネコンも家族で生活する人はいない。放射能の専門家が住まない町が本当に安全だとは誰も思わない」と訴えている。
加えて、この男性は「いち早く(被災地から他の地域へ)移住を決めたのは東京電力の社員。この現実をどう受け止めればいいのか」と現実を訴える。
男性は「特例法で年間被ばく線量20ミリシーベルトまでは居住可能としているが、本来は1ミリシーベルト以下が基準であり、心配が残るのだ。避難指示が解除された場所に住む住民はモルモットではない」と政府への不信感も隠していない。
政府は除染作業や避難区域解除後の地域へのフォローに過剰なほどに関与すべきだろう。
原発事故当時、筆者は原発再稼働なら原発事業者の役員や役員家族、経産大臣、原子力規制委員会の委員や家族が原発20キロエリア内に居住すべきと書いた。男性が不安に感じている通りなのだ。リーダーの家族が直接、危機に晒される状況にあれば徹底した安全管理が幾重にもチェックされ、実行されるはずだからだ。他人事で済まない状況を担保することが効果的だ。
安倍政権の原発政策に筆者は賛成できない。原発は廃止すべきとの立場だ。しかし、安倍政権は電源構成に占める原発依存率を2030年度に20~22%とし、安倍政権を支える自民党と公明党は立憲民主党、日本共産党、自由党、社会民主党と無所属の会の一部議員が国会に今春共同提出した「原発ゼロ基本法案」の審議にさえ入らなかった。
会期延長してまで参院議員定数の6増やカジノ法案を成立させたにも関わらず、原発に関しては野党提出法案を無視し、原発生き残りを担保したばかりか、既存の原発のみでなく原発依存率を20~22%とすることで新増設まで認める道筋をつけている。政権交代がない限り、この方針に変更はないのだろう。
ただ、最低限でも、政府は特別報告者の声明を真摯に受け止め、除染作業の実態調査を抜き打ちで継続的に行い、実態を把握し、不適切な部分を指導、改善させ、その内容を年度ごとに国会に報告し、安全を担保した除染作業になるよう徹底するべき。(編集担当:森高龍二)