世界規模でEV市場が活発化。覇権のカギを握るのはSiCパワーデバイス

2018年09月15日 11:48

EV

活発化するEV市場。覇権のカギを握るのはSiCパワーデバイス

 欧米の自動車業界で、電気自動車(EV)市場の動きがにわかに活発になってきた。火付け役はドイツのダイムラー社だ。同社は日本でも人気の高い高級車「メルセデス・ベンツ」のEV専用ブランドとして「EQ」を立ち上げ、9月4日にはEV市場に本格参入する第一弾モデルを発表した。これに呼応するかのように、アウディやBMWなども来年度、新たなEVを一斉投入する姿勢を見せている。

 日本でも、昨年9月に大きな動きがあった。トヨタ自動車とマツダ、そしてトヨタグループの自動車部品を担うデンソーが、制御システムなどの技術確立を目指し、新会社「EV C.A. Spirit」を発足。18年以降これにスズキやSUBARU、日野自動車、ダイハツ工業の4社も参加し技術者を派遣しており、9月5日にはいすゞも参加を発表。前代未聞の大連携が始まっている。

 この背景には、世界最大の自動車市場として大きな成長を遂げた中国の影響が大きい。中国は2019年に新たな環境規制導入を発表しており、自動車など関連産業の育成に力を入れている。これを受け、日産自動車はすでに広州の現地企業とセダンタイプのEV「シルフィ ゼロ・エミッション」生産を開始。今後の自動車産業のシェア争いには、EV戦略の成功が大きく左右するのは言うまでもないだろう。

 そんな中、需要が高まっているのがシリコンカーバイド(SiC:炭化ケイ素)だ。ケイ素(Si)と炭素(C)の化合物であるシリコンカーバイドで作られたSiCパワーデバイスは、従来の半導体よりもはるかに電力の変換効率が高いうえに、変換時に発生する熱も少ない。そのため、劇的な省エネ化や冷却機構を含めた機器の大幅な小型化が可能で、高性能なEVには欠かせないものになりつつある。

 ところが、SiCは結晶をつくる加工が極めて困難で、1990年代頃までは研究開発レベルを脱することができなかった。2000年に入り、ようやくInfineonやCREEといった欧米メーカーがダイオードの量産を開始するが、さらなる技術革新を果たしたのが日本の半導体企業大手のロームだ。同社は独自の製造手法で、2010年、ついに世界で初めてトランジスタの量産化に成功。以来、SiCパワーデバイスのリーディングカンパニーとして開発と研究を進めている。

 近年では、人気が高まる「電気自動車のF1」、フォーミュラEにもVenturiチームのオフィシャル・テクノロジー・パートナーとして参戦。マシン駆動の中核を担うインバータ部分に同社の最新のフルSiCパワーモジュールを搭載することで、SiC搭載前のシーズン2と比較すると、43%の小型化、6kgの軽量化を実現している。

 世界各国の自動車メーカーが、EV市場の覇権を狙って動く中、そのカギとなる最先端の技術は日本が握っている。自動車大国復活に向けて大いに期待が高まる。(編集担当:松田渡)