2017年秋に日産自動車は、同社を代表する電気自動車(EV)「リーフ」を第2世代にフルモデルチェンジして、1回の充電で走行できる距離をそれまでの1.4倍、約400kmに伸ばす全面改良を施した。その量産EVで世界市場をリードしている日産が、さらにEV事業を強化する。
同社は2020年を目途に栃木県上三川町の栃木工場で、リーフよりも大型で高級なEV生産を開始する。北米など海外では高級ブランド「インフィニティ」として、日本では日産ブランドでそれを販売する計画だ。これまで日産のEVは国際的にBセグメントと呼ばれる実用的な小型車中心で、HBタイプの乗用車「リーフ」とコンパクトな商用車「e-NV200」などだった。先般、中国で生産を開始したEV「シルフィ」もリーフと車台を共用するBセグ車だ。
そこで日産は栃木工場に数100億円を投じて生産ラインを整備し、2021年に新型EVを生産する。既存の「リーフ」は、国内では横須賀市追浜工場で生産しており、栃木工場は国内で2拠点目のEV生産ラインになる。ラインアップに大型高級EVを加えて選択肢を広げることで市場拡大に弾みをつける。
トヨタ自動車もこうした動きに対抗策を講じる。同社は、2019年に「カローラ」および「レビン」のプラグインハイブリッド車(PHV)を、また2020年に「C-HR」とその兄弟車「IZOA」ベースのEVを、それぞれ中国で現地生産し、市場に導入することを発表した。加え、2020年までにこれらの車種を含む10の電動車を新たに中国市場に導入する計画で、電動車のコア技術であるバッテリー、インバーター、駆動系ユニット等中国における現地生産化を進める。現地に根差した車両電動化を加速させる。
これまで、EV開発に極めて慎重で、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車(PHV)をエコカーの「最適解」と捉え、将来の環境対応車究極モデルとして燃料電池車(FCV)を本命視してきたトヨタが、EV開発で巻き返しを狙う。
トヨタは、1960年代からEVやHVの研究を進めてきた。事実HV「プリウス」で20年間、培ってきた電動要素技術や制御技術、生産技術はEVに大いに活かせる、優位性もあり、EV開発に並々ならぬ自信を示す。
その背景にあるのは、トヨタが力を入れて開発してきた全固体電池の存在だ。EVに積極的になったのは、安全性が高く性能も優れた全固体電池の技術開発に目途が立ちつつあるからだ。
また、トヨタは電動化の加速に向け、中国での電動車パワートレーンの現地開発・生産体制を強化する。開発面では中国の研究開発拠点であるトヨタ自動車研究開発センター(中国)有限会社(TMEC)に、電動車の電池パックを評価する電池試験棟を2020年に稼働させる。生産面においても2020年の10車種EV導入を念頭に、現地での生産体制を整えて行くとしている。
一方、世界自動車覇権争いでライバルの独フォルクスワーゲン(VW)は昨年11月下旬に、アウディやポルシェなどを含むグループ全体で2018~22年に340億ユーロ(約4兆5000億円)を投資すると発表。EVを中心とする電動化車両の開発を加速し、グローバルな生産体制の構築を急ぐ。電動化でライバルをリードし、ボリュームゾーンで主導権を握り、ポルシェによる高級スポーツカーEVなどの開発を掲げた。
具体的には、VWの電気自動車専用に開発された技術、プラットフォームである「モジュラーエレクトリック・ドライブマトリックス」(MEB)をベースとするVW初の量産EVであるVW「I.D.(アイディ)」の生産は、2019年末からスタートする。
当初、量産EV Bセグなど小型車が多かった。が、電池やモーターの技術がアップし、米テスラ社を見ても分かるようにEVは今後、大型車にも波及していく見通し。独ダイムラーもEV専用ブランド「EQ」を立ち上げ、2019年に欧米などで発売する計画だ。また、詳細は別項に譲るが、高級スポーツカーメーカーの伊フェラーリも、年間1万台計画の一環として、電動車開発に乗り出す。日産は当面、リーフをEVの普及車、インフィニティの高級車EVと位置付けて市場に浸透させる構えだ。
日産の既存高級車は、国内では「スカイライン」や「フーガ」などを約400万~700万円で販売。海外では同じ車両をインフィニティブランドで展開している。そこに投入する高級EV、メルセデスやテスラと競合するのは明らかで、日米欧メーカーによる電動シフトが進みそうだ。(編集担当:吉田恒)