トヨタ自動車の業績が好調だ。2019年3月期の連結業績見通しを上方修正した。発表した2018年4~9月期連結決算によると売上高は過去最高で、前期比3%プラスの14兆6740億円。売上高純利益率も8.5%、純利益高は1兆2423億円(前年比116%)で、数字のうえでは絶好調といえる。トヨタの売上高純利益率8.5%は、独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)の5%前後を大きく上回る。トヨタ生産方式や徹底したコスト削減で先行しているからだ。
同時に2019年3月期の連結業績見通しでは、売上高が従来予想を5000億円引き上げ、29兆5000億円と過去最高の見通し。純利益は従来予想の15%マイナスの2兆1200億円から減益幅が縮小し、前期比8%のマイナスに留まり2兆3000億円を見込んでいるとした。加えて、世界販売台数も過去最高となるという。
しかしながら2大市場の米国と中国の対立は激化する一方で、カーシェアリングや自動運転など技術面でも巨大投資が必要となる。先の読めない時代を迎え、トヨタは「稼ぐ力」を付けて体力を増強すると同時に、先端技術への投資を積極化する。同時に鉄鋼など原材料高の逆風が吹くなか、コストの削減を進め、利益を積み増すとした。
一方で、トヨタは将来的危機感も抱いている。トヨタの世界販売の約25%を占める米国事業が苦戦しているからだ。昨2018年3月期の北米の所在地別の営業利益は1321億円と3年間で4分の1にまで落ち込んだ。新車市場が減速するなか、値引きの原資となるインセンティブ(販売奨励金)が増え利益を圧迫した結果だ。
北米トヨタは、今後3年でモデルチェンジも含め北米で計31の新車を投入する計画だ。新車投入でインセンティブを減らし、利益率を上げる。売れ筋のピックアップトラックなど大型車を増産し利益率を高める計画だ。
トヨタこの8月に米トランプ政権による輸入車関税案の影響が1台6000ドル(約68万円)に上るとの見解を発表した。その後も米国は中国を狙い制裁関税を強め、9月にはメキシコ、カナダとの間で、自国優先を前面に出した北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しで合意した。NAFTAの新ルールは米国生産車の部品調達率を75%(現在は62.5%)に引き上げるほか、時給の高い地域で一定量を生産する賃金条項も盛り込んだ。これが、新たな投資や負担増を招く可能性がある。
中国市場にも危機感はある。中国の関税引き下げを受け、新車価格を数パーセント値下げした高級車のレクサス・ブランドが好調で、10月の販売は前年同月比で2割近く伸びた。17年の販売台数は約130万台と10年で倍以上に増えた。が、市場シェアは約6.3%。VW(17.6%)やGM(14.9%)との差は小さくない。しかも、中国は政治状況に応じて事業環境に影響を及ぼす危険があり、対米貿易戦争の影響で景気の減速も既に出始めている。2大市場である米中で不透明感は払拭できない。
さらに技術面ではカーシェアや自動運転の普及が目前に迫り、トヨタはソフトバンクグループと提携したほか、米ウーバーテクノロジーズなど世界の配車サービス大手に出資。データの活用も含めた次世代競争に備える。そのための投資は膨らむ一方だ。好業績が続くなかでもコスト削減で収益力を高め、先端分野に再投資できる体制の構築を急ぐ理由はここにあるわけだ。
米国で保護主義が強まるなか、トヨタは北米での現地生産を拡大する。そのために5年で1兆円超を投資し、日本から米国への輸出は減らす。一方、国内の新車市場は減少が見込まれる。トヨタは東日本大震災後などを除き、これまで40年近く日本国内で300万台以上を生産してきた。死守してきたその国内生産体制300万台が危うい。
トヨタは全国5000拠点の販売店ですべての車種を併売すると発表するなど、構造改革で販売減の食い止めを狙う。その一方、東京を中心にカーシェアや定額サービスを始める。多様なモビリティーサービスを提供する会社に変革するというわけだ。新車販売だけに依存せず、サービス事業で稼げる体質への転換を目指す。(編集担当:吉田恒)