1987年、ニューヨーク市場でブラックマンデーと呼ばれる株価暴落があった。この原因の一つとして機関投資家の多くが同様のコンピュータ・シミュレーションモデルを使っていたため株価のわずかな変動にマーケットの大勢が同一の反応をしてしまったためとされた。もし、人間が意志決定を行っていたならば株価変動への多様性のある解釈によって売り買いの判断はバラついたであろう。
現在、AIと呼ばれるシステムは自己学習するシミュレーションモデルのことである。その体表は神経回路網モデルで、そこでは神経細胞たちの集団的意志決定によって判断が下される。人類は同一の脳の構造を持っている。にもかかわらず一つの事象に対し個人レベルでは多様な判断、選択を行う。この多様性、個性が「人間らしさ」である。しかし、この「個性」がいかなるアルゴリズムで生成されるのか脳科学的には明らかにされていなかった。
13日、米国の科学雑誌「Nature Neuroscience」に理研の深井朋樹チームの論文が掲載された。これは意志決定過程においてどのように個性が生み出されるか、その神経回路網の挙動を明らかにした論文だ。
チームはラットに特定の行動選択ルールを学習させた上で新しい条件下でどのように学習した基準を応用するのか、その時のラット脳の神経活動を観測した。その結果、個体間の行動選択のバラつきと前頭葉裏側の神経細胞集団の活動の揺らぎとの間に相関があること発見した。さらにこの現象をコンピュータ内の学習神経回路網モデルとして再現することに成功した。
この研究成果が表現していることは、個性、つまり個体差は外からの刺激に対する神経回路網の「感受性」の違いによって決まるということだ。ここで「感受性」とは期待された答えからの偏差、正解への道を撹乱する横風に対する反応の強さのことである。「外的擾乱(じょうらん)に対する感受性(安定性)」などと表現される。
理研チームは「本研究成果は、個性の発現に関与する神経メカニズムの解明や、ヒトらしく振る舞う人工知能(AI)の開発に貢献すると期待できる」としている。仮にAIシステムのアルゴリズムが同様なものであったとしても、運用者の意図を読み取り、経験学習からイレギュラーへの感受性を更新し続ける人間味をもったロボットの提言によって、揺らぎのある(多様性を持った)マーケット、個性に基づく創造性をもったマーケットが実現するのかもしれない。(編集担当:久保田雄城)