厚生労働省の患者調査で精神科患者の推移を見ると、1999年に204万人であったものが直近公表データの2014年では392万人と増加傾向で推移している。内訳をみると認知症患者の増加傾向が目立つ。うつ病を含む気分障害は99年に44万人、05年に92万人、14年には112万人と増加傾向であるが伸び率は鈍化しているようだ。
精神疾患の場合、統計数字は疾患それ自体ではなく認知件数の推移ではないかと指摘されることが多い。そして認知件数の増加の背景には効果的な新薬の登場があるケースが少なくない。90年代末から00年代初めにかけてうつ病患者が急増している背景には80年代に米国でSSRIという有効な新薬が開発され、90年代に厚生省がこの使用を認可したからだと指摘される。
日本での精神科における治療は中枢神経作用薬による、いわゆる薬物療法が中心だ。20日、富士経済が中枢神経領域の医療用医薬品国内市場のレポートを公表している。
レポートによれば、うつ病や社会不安障害、PTSDなどに適用される抗うつ剤の市場規模の18年見込みは1247億円で、対前年比は98.0%と縮小で推移するとなっている。SSRIを主力とする抗うつ剤自体は実績を伸ばしているものの大型ジェネリック製品が発売され、今後もジェネリックへの切り替えが進むことから26年の予測市場規模は1202億円で対17年比94.5%までに縮小するとされている。
これに対して近年増加傾向で推移しているのが発達障害の一つであるADHDの治療薬で、18年市場規模は372億円と推計、26年の予測値は514億円と大きく規模を拡大すると予測されている。ADHD治療薬は小児治療薬の発売が続くと見込まれるとともに、成人ADHDへの適用が拡大され、これに伴い市場規模はしばらく大きく拡大傾向で推移するものの、本剤においてもジェネリック剤の発売が予定されており、しだいに伸び率は鈍化すると予測されている。
この他、統合失調症や認知症の治療薬でもジェネリックへの切り替えが進んでいることから、精神科領域の中枢神経系作用剤全体の市場規模は、18年の見込みが6866億円で17年比98.0%と縮小、26年予測値が6820億円で同97.3%と縮小傾向が維持されると予測されている。
有効な新薬の登場は完治に至らないまでも患者に希望を与える。新薬の開発が高付加価値に結びつき、これが新薬開発のモチベーションを高めることになる。ジェネリックの発売と相まって安価で効果的な薬が普及することを期待する。(編集担当:久保田雄城)