新卒採用の一斉スタート制が緩和される。海外企業への就職や、海外の大学から日本国内の企業への就職など、進学先や就職先の多様化によって大学新卒者の就職活動のスタートラインを経団連主体で決めることに不都合が生じるようになってきているという背景がある。
就職活動が変化する見通しだ。現在は大学在学中に就職活動を行い、大学を卒業したら就職する「春季一括採用」が一般的なスタイルになっている。就職説明会の解禁が3月で面接解禁が6月というのが就職活動のルールとされているが、このスケジュールが形骸化している問題に加えて、一括採用に固執することで学生側は選考の機会を、企業側は優秀な人材確保の機会をそれぞれ失う可能性もあるのだ。
具体的には、海外の大学から日本の企業に就職しようとする学生の問題がある。アメリカでは大学を卒業するのが5月から6月にかけての時期であり、イギリスでは授業の修了が5月で卒業シーズンは7月である。日本人の学生かどうかに関わらず、海外の大学を卒業して日本の企業に就職しようとすれば、就職活動で日本に戻っている時期は大学にまったく行けない可能性もある。
また、以前より問題となっている学業と就職活動とのバランスもある。学部3年の3月から説明会が解禁されて6月から面接開始では、大学で勉強する期間は実質3年程度になる。就職活動が長引いてしまえば卒業論文など卒業に必要な課題をする時間も減ってしまう。就職活動の準備を行う期間を視野に入れた場合は勉強に当てられる時間はもっと少なくなるだろう。大学が学問や研究を行う機会が失われ、大学卒業という名目だけを得る場になってしまう。
学生が海外企業への就職をためらう要因にもなる。日本での新卒採用の機会を一度逃してしまうと、凝り固まった就職活動のスケジュールに途中から飛び込むのは困難であるためである。もちろん海外企業に就職したのちに中途採用枠や転職という形で日本に戻ることはできるが、就職活動の段階で海外を視野に入れて途中から日本の新卒一斉採用型の就職活動にシフトするということが困難なのだ。
学生の進学先や、希望する就職先は多様化している。学生横並びの採用システム緩和は、時代の変化に合わせた経団連の英断と言えるだろう。就職活動の時期に制約がなくなれば、学業やインターンシップに力を入れていた学生にもメリットがある。就職のために時間を使うか、研究に尽力するか、留学する、インターンシップに参加するなど、大学に通いながら何をするかは学生が決めることであり、それを就職活動のスケジュールを画一化することによって暗黙のうちに制限する必要はないのである。(編集担当:久保田雄城)