経団連の中西宏明会長の発言をきっかけに、大きな話題となった「就活ルール」の廃止議論。売り手市場といわれる昨今の就活戦線の最中、一気に採用競争が過熱するのではと懸念されたものの、政府が調整に乗り出したことで、現状では、現行のルールを継続する先送りの意向で落ち着いた。
とはいえ、完全に立ち消えとなったわけではない。中西会長をはじめとする賛成派の主張では、外資系や新興企業も増えている今、現行の就活ルールはすでに形骸化している。そもそも、「就活ルール」はもとより、その前提である新卒一括採用自体が日本独自のシステムであり、グローバル化が進むこの時代にそぐわないというのだ。
一方、大学側や学生からは、「就活ルール」が廃止されれば、就職活動の早期化や学業への影響を懸念する声も上がっている。また、大手に比べ知名度が低く、人材難にあえいでいる中小企業にとっては、企業の将来をも大きく左右しかねない問題だ。
このような問題が表面化してきたのは、16年卒の就職戦線あたりからだろう。この頃、経団連は就職活動の影響が学業に及ばないように、それまで12月から解禁だった就職活動を3か月後ろ倒しにした。そのため、経団連加盟企業の採用活動の開始が遅くなったのだが、これに困ったのが非加盟の、とくに中小企業だ。せっかく優秀な人材を見つけて内定を出しても、法的な拘束力はないため、後から大手企業にとられてしまう場合がある。まさに後出しジャンケンだ。
そこで企業は様々なカタチでの、就活生の囲い込みを行わざるを得なくなった。中には、「就活終わらせハラスメント」、通称「オワハラ」と呼ばれるような強引な囲い込みを行っている企業も少なくないようだ。内定を出した学生と役員との食事会を設けて囲い込んだり、他企業の選考を受ける時間をなくすため、泊まり込みの研修を行なったり、中には内定を出すことを条件に、並行して受けている他社を目の前で電話して断らせるなど、悪質なものまであるらしい。
もちろん、そんな中小だからといって、オワハラ企業ばかりというわけではない。例えば、10月1日にベルサール新宿グランドにて内定式を行った、木造住宅メーカーのアキュラホームは、今年、アキュラグループ全体で120名の内定者を確保している。同社に好調の要因を聞いたところ「リクルーター制度の拡張」、「6種類、計48回にわたるインターンシップ」「フォロー体制の充実」などが挙がった。中でも、内定者の約半数の47%がインターンシップに参加していることは注目に値する。なぜなら、内定者たちは「下手な鉄砲」でアキュラホームを受けたのではなく、実際の仕事現場を体験したうえでアキュラホームを狙い撃ちしてきたということになるからだ。
結局のところ、最強の囲い込みは、その企業自体の魅力を向上させることかもしれない。企業の魅力が向上すれば、就活ルールが維持されても廃止されても、それほど大きな影響も受けないで済むのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)