無線通信は今や、現代社会には欠かせないものになりつつある。スマートフォンやタブレットは言うに及ばず、スマートメーターやHEMS、IoT、道路や橋などのインフラの監視、自動車の自動走行や、防災、医療など、無線通信が途絶えてしまったら、今の便利な社会はもう成り立たないほどだ。
しかし、一般的には、その無線にも種類があり、それぞれの用途に最適な規格があることは、あまり知られていない。無線通信を設定するシステム業者やハード会社でもない限り、無線通信といえばすべて「Wi-Fi」と思い込んでいる人も多いのではないだろうか。
では、 Wi-Fiの他にどんな無線通信規格があるのだろう。例えば、東京ガス株式会社が2019 年2 月28 日から販売している「くらし見守りサービス」には、 Wi-Fiではなく、最新の無線通信技術「Wi-SUN JUTA」規格が採用されている。
Wi-SUN は、京都大学の原田博司教授が牽引し、Wi-SUNアライアンスが標準化を行ってきた日本発の国際無線通信規格だ。Wi-Fi よりも通信距離が長く、 LoRa やSigfox といったLPWAよりも高速通信が可能な無線通信規格で、適度に飛び、適度に速い、基地局依存 しないバランス の良さが特長だ。とくに電気・ガス・水道などの公共サービス・社会基盤の通信に適しているといわれており、電力スマートメーター( Bルート)においては、2018 年までに4000万台以上の実績があり 、2024 年まで に8000万台に採用が進むと予測されている。そして、その最新版ともいえるものが「Wi-SUN JUTA」だ。
「Wi-SUN JUTA」は、NPO 法人テレメータリング推進協議会(JUTA : Japan Utility Telemetering Association)が標準化を進めてきたスマートメーター用通信規格「Uバスエア」の無線通信方式の標準規格で、単三電池 たった2本で10 年以上動作可能な超低消費電力と、無線同士の干渉に強いのが特長となっている。外でも家庭でも無数の無線が飛び交う現代社会において、混信は避けられない問題だが、Wi-SUN JUTA は、データ送信を行う際、すぐに電波を出さずに送信先のビーコンを受信するまで待ち、送受信ができるタイミングを計ってデータ送信用の電波を出す方式を採用しているため、干渉が起こりにくく、通信成功率が落ちないのだ。
JUTA 会員の東京ガスは、同社が提供する「くらし見守りサービス」でもWi-SUN JUTAが最適であると着目し、Wi-SUN JUTAの仕様策定段階から、Wi-SUNアライアンスメンバーでありWi-SUN 製品の開発に長けたローム株式会社にWi-SUN JUTA を採用する無線通信モジュールのカスタム開発を依頼している。
ちなみに同サービスは、自宅のドアや窓に設置したセンサーや家族が携帯するセンサーを、自宅に設置するホームゲートウェイを介して専用アプリと連動させることで、外出先から、自宅のドアや窓の施錠状態・開閉状況および家族の帰宅などを確認できるものだ。共働き世帯の増加や、昨今のセキュリティ意識の向上もあって、需要は順調に伸びているという。Wi-SUNやWi-SUN JUTAの特長である、低消費電力と安定性の高さは、スマートメーターだけでなく、こういった安心と安全を求めるセキュリティステムには最適な無線通信規格といえるだろう。
開発を担当したロームでは、電池駆動のガスメーターや水道メーターにおいて、本格的にスマートメーターの導入が進んでいることを背景に、今回開発した製品にとどまらず、これをベースにスマートメーター向けの製品化をより積極的に進め、市場参入を目指す方針を明らかにしている。また、環境センサーや人感センサー、開閉センサー、警報機など、ビーコンを活用する電池駆動のセンサーやコントローラー等の制御、情報収集など、幅広いIoT 機器においてWi-SUN JUTA は最適であることから、今後の製品開発にも期待がかかる。(編集担当:藤原伊織)