40兆円もの市場規模をもつ運輸業界のうち、半数以上の約25兆円を占める物流業界。ところが、近年物流分野における労働力不足が顕在化しており、全日本トラック協会の調べによると、約6割以上の企業がトラックドライバーの人数が「不足している」または「やや不足」と回答していることが分かった。その上、Eコマースの拡大によって国内の貨物輸送の小口化・多頻度化も進んでおり、運送業者の効率性は低下しており、負担も増加しているのが現状だ。
人手不足を補うには、作業の効率化を図るしかない。そんな中、今や物流の現場に欠かせないものとなっているのがPDラベルやSCMラベルといった物流ラベルだ。
物流センターの仕分けに用いられるPDラベルや、その発展型として内容明細や伝票番号などまで印字されたSCMラベルを用いることで、検品作業の簡素化や効率化を図ることができる。最近は、さらにラベルに様々なデジタル情報をプラスし、スマホやタブレットをバーコードにかざすだけで情報を閲覧できるようにしたスマートラベルも登場しており、作業効率の向上だけでなく、販促などマーケティング分野への活用も期待されている。
ところが、その一方で新たな問題が懸念されている。その問題とは、印字情報量とラベル印刷量の増加だ。物流の効率を図る目的だけでなく、トレーサビリティが重要視される昨今、製造所固有記号や製造年月日、消費期限など、あらゆる情報がラベルやレシートなどに記載されるようになった。さらに食料品などでは、新食品表示制度の導入によって、栄養成分表示の義務化やアレルギー表示の変更など、印字すべきものが増えている。
そこで重要になってくるのが、ラベルや包装材などにデートコード情報を印字するプリントヘッドの性能だが、大量の印刷物を高速且つ高精細で印字でき、耐擦過性に優れたものとなると難しい。
現在、高速印字が必要な場面では、主に転写性に優れたワックス系インクリボンが使われている。しかし、製造や梱包、出荷や運搬の際に対象物が擦れあったりして、消えたり剥離してしまう可能性が高い。大切な情報が消えてしまっては本末転倒だ。そこで近年では、耐擦過性に優れたレジン系インクリボンが注目されているのだが、こちらは逆に印字速度が遅くなる。耐擦過性と印字速度の両立は背反関係にあるのだ。
そんな中、電子部品大手のローム〈6963〉が画期的なサーマルプリントヘッドの開発に成功したという。同社はこれまでにも、半導体技術を使用したドライバーICや、厚膜印刷技術、薄膜成膜技術などを用いた、高性能なサーマルプリントヘッドを展開してきた。同社のサーマルプリントヘッドは小型で省エネ、高画質、高品質をうりにしているが、今回、ロームは構成材料と構造の抜本的な見直しを行うことで、レジン系インクリボンを使用した場合でも、超高速かつ高精細印字が可能なサーマルプリントヘッドを「TH3002-2P1W00A」を作り出したのだ。
「TH3002-2P1W00A」最大の特長は、幅広い印字媒体で、 解像度 305dpi で業界最高クラスの印字速度を達成している点だ。レジン系インクリボンを使用した場合でも、一般のサーマルプリントヘッドでは印字不可能とされる 1000mm/秒での高精細かつ高速印字が可能だという。
また、同社試験によると、一般品の7倍以上の腐食耐性を実現しており、サーマルヘッドの長寿命に貢献している。食品加工現場や物流倉庫 といった環境でも、長期にわたって安心して使用できるのは大きな強みだ。
市場では今、スマートタグによる物流管理や、無人レジで使用できるICタグ内蔵値札などの導入も進んでおり、印刷の用途も広がっている。日本国内だけでなく、世界の市場でも同様で、こういった革新的な印刷技術は歓迎されることだろう。ともあれ、印刷の品質とスピード、そして安定性が上がれば、間接的であれ、現場の作業効率の改善にもつながるだろう。「人手不足」を嘆く前に、こういった一つ一つのことの改善に目を向けていきたいものだ。(編集担当:藤原伊織)