苦戦選挙の焦りから不本意な失言

2012年12月08日 11:00

 藤村修官房長官が衆院選公示後の7日に初めて地元入り。記者団から再度の地元入りの可能性を聞かれ「北のミサイルがいつ上がるかですわ。さっさと月曜日(10日)、あげてくれるといいんですけど」と語った。批判が相次ぐ。まさか、そんなこと。本気で思っていないでしょ。

 「さっさと、あげてくれれるといいんですけど」は焦りの言葉とみれる。

 藤村官房長官は政府として北朝鮮が人工衛星とするミサイル発射の自制を日米韓連携して強く求めている。7日にはロシアとも連携してミサイル打ち上げ阻止へ協力を確認した。

 そんな中で万万一に備え、打ち上げが行われた場合、その部品が日本の領土・領海に落下しそうなときには、破壊措置をとるよう安全保障会議方針に基づいて防衛大臣から担当者に命令も出された。

 藤村官房長官は「打ち上げ自制を強く求めているが、仮に発射を強行しても北朝鮮が設定した落下区域などを考慮すると、日本の領域内に落下するケースは通常は起こらないと考えている」との認識を示しており、防衛省も北朝鮮が公表した部品の落下予想地点などから4月同様に沖縄県の先島諸島上空をミサイルは通過すると想定している。

 万一の対応は10日(月曜日)以前に態勢が整う。そうした最悪のリスクへの対応もできたことへの安堵感や地元入りしての気のゆるみから、自制に応じないなら発射予告日初日にあげればふたつのストレスから解放されると無意識に思ったかもしれない。

 ひとつは多くの閣僚が官邸や所属省庁に半日は貼り付けになる状況からの解放だ。10日から北朝鮮が打ち上げるとしている期日の期間中、野田総理と藤村官房長官は午前7時から正午まで官邸内に缶詰状態にされる。

 またミサイル発射でなんらかの対応を迫られる可能性のある閣僚、総務大臣・外務大臣・国交大臣・防衛大臣・国家公安委員長も結局、この時間帯は所属省庁で待機することになっている。

 民主にとって政権の命運のかかった総選挙だが、10日以降は北朝鮮が自制に応じるか、ミサイルを発射してしまうか。いづれかの結果が出るまで政権支持を訴えに街頭にも飛び出せないもどかしさはマスコミ各社の世論調査の報道をみながら強まるばかりだろう。

 記者会見での発言でいつも相当慎重な発言をする官房長官が、地元の空気に触れ、多くの仲間が予想を超える苦戦を強いられている状況に、政権支持を求める応援演説もできない。それは自分だけでなく、野田総理、樽床総務大臣、玄葉外務大臣といった、党の顔が活動できないことへのもどかしさでもあるだろう。

 今回の選挙、マスコミ各社の調査では自民が過半数前後まで議席を伸ばし、日本維新の会も善戦する傾向という。

 両党ともに、憲法改正、集団的自衛権が行使できるのは当然、自衛隊の国防軍(自民)への位置づけなど憲法9条の思想や国防への取り組みが大きく変わる可能性を秘めている。集団的自衛権や自衛隊、憲法改正に自民党とは路線の違いをみせる公明党は、この問題への取り組みが具体化すれば、連立離脱の可能性が生じるかもしれない。逆に,この問題に関しては自民と日本維新の会は握手できそうだ。

 民主党は集団的自衛権の行使についても、党内で意見が分かれている。ただし、政府はこれまでの政府の憲法解釈を堅持している。マスコミ調査の通り、自民政権が誕生した場合には、この解釈が変更される可能性は高い。それもまた、有権者の選択の結果なのだが。一方、現行憲法を守る姿勢を明確にし、護憲を主張し続けているのは社会民主党と日本共産党ということになる。

 今回選挙では原発エネルギー、TPP、外交、消費税増税、デフレ脱却の経済政策が大きな争点になっているが、自民・日本維新の会の躍進傾向から、新たに憲法改正や自衛隊・防衛のあり方も大きな争点にあがりはじめている。

 いずれの争点も国民生活に大きな影響を与える問題だけに、政権の行方はどこなのか、選挙後の政権が日本の行方を大きく変えることになる。そう考えれば、藤村官房長官の焦りからの不本意発言も理解できるのかもしれない。(編集担当:森高龍二)