憲法に自衛隊、その時、兵役は苦役か義務か

2019年07月28日 10:02

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憲法に自衛隊を明記する、緊急事態条項を追記することをめざす安倍晋三自民党総裁(総理)にとって、この数値をクリアするのに無理な数値ではない。

 参議院選挙の結果、改憲勢力議席は憲法改正発議に必要な3分の2議席を割り込んだ。しかし、割り込んだのは4議席のみ。憲法に自衛隊を明記する、緊急事態条項を追記することをめざす安倍晋三自民党総裁(総理)にとって、この数値をクリアするのに無理な数値ではない。

 立憲・国民・共産・社民、社会保障の5党派は「9条(戦争の放棄)改定に反対し、改憲発議そのものをさせないことに全力を尽くす」とした共通政策にもとづき、改憲勢力と五分五分の緊張状態で次の参院選まで向き合わなければならない。

 安倍総裁は参議院選挙後の会見で「改憲案を議論するのは私たち国会議員の責任だ」とこれまで以上に強調し「改正原案を審査すべき憲法審査会は野党の協力が得られず、この1年間、衆議院ではわずか2時間余り、参議院ではたった3分しか開かれていない」と述べ「与野党の枠を超えて真剣な議論を」促した。

 その際、安倍総裁は自民党の自衛隊追記、緊急事態条項追記を「最善と考えるものを提案させて頂いている」とし「憲法改正案の策定に向かって、衆参両院の第一党として、わが党は今後、強いリーダーシップを発揮していく決意」と改めて改憲に強い意欲を示した。

 安倍総裁は憲法に自衛隊を書き込んでも何も変わらないと主張する。安倍総裁は自衛隊違憲論がなくなり、合憲を明確にするだけだといいたいのだろう。しかし、自衛隊が憲法に「国家機関」として書き込まれれば、憲法9条の規定による制限から自衛隊は解放され、集団的自衛権もフルに行使しえることになる。

 そればかりではない。安保法制以来減り続ける自衛隊志望者と慢性化しつつある定員割れには改憲後に徴兵制度もちらつく。もちろん、現行憲法下では安倍総理も認める「憲法違反」になるため導入しえない。

 安倍総理は「現行憲法下では徴兵制は憲法18条の意に反する苦役にあたるので認められない。憲法違反である。徴兵制はあり得ない」と2014年7月15日の参院予算委員会で当時社民党党首だった吉田忠智議員の質問に答弁している。

 この時、吉田議員は「政府は一貫して、憲法18条の意に反する苦役にあたるので、徴兵制は認められないとし、総理も全く考えていないと言われている。我が党も徴兵制は絶対あってはならないと思っているが、将来、徴兵制が意に反する苦役にあたらないとの憲法解釈の見直しや解釈変更の閣議決定で徴兵制が可能になる。そうした危惧はあるのではないか」との問いに答えたものだ。

 横畠裕介内閣法制局長官は「徴兵制はわが憲法の秩序の下では、社会の構成員が社会生活を営むについて公共の福祉に照らし、当然に負担すべきものとして社会的に認められるようなものではないので、兵役といわれる役務を義務としてかされることは平時であると、有事を問わず、憲法13条、18条などの趣旨から見て許容されるものでないことは明らかであって、指摘のような解釈変更の余地はないと考えている」と答弁した。

 しかし、憲法に「自衛隊」が明記された場合、この解釈は大きく変わりそうだ。国民が国家の有事に備え、憲法に明記された「自衛隊」へ一定期間役務するのは国民の義務で、苦役とは言えず、憲法違反ではないとの論理にすりかわる危険がぬぐえない。

 自衛隊明記なら「集団的自衛権制限規定」と「兵役といわれる役務を義務としてかされることは平時、有事を問わず許容されない」(徴兵制禁止)との規定が追記されるべき。憲法9条をさわるなら、縛るべきところを明確に縛ることが重要だ。(編集担当:森高龍二)