2035年の市場が58倍? マイルドハイブリッドは日本の自動車産業の救世主となるか

2019年09月08日 11:50

HV

2035年までに爆発的な伸びを見せると予測されているマイルドハイブリッド車。そのメリットとデメリット

 電動化、自動化、カーシェアなど、100年に一度ともいわれる大変革期の中にある自動車業界。今後、日本の自動車産業はどのような道を辿るのだろうか。

 富士経済の調査によると、電動モーターのみで駆動するEVの需要が世界的に増加しており、2035年には現在の17倍にあたる2202万台にまで販売が拡大する見通しだという。一方、電動モーターと小型エンジンを備えたHV(ハイブリッド車)の2035年の世界販売台数は785万台、HVよりも蓄電できる電気量の多いPHV(プラグインハイブリッド車)は1103万台となっている。2021年には電動車の主力がEVになるという予測だ。これまでHVに力を注いできた日本の自動車メーカーにとっては、あまり嬉しくない予測ではある。しかし、それで日本の自動車産業が衰退してしまうのではないかと悲観的に考えるのは、いささか早計かもしれない。その理由は「マイルドハイブリッド」だ。

 マイルドハイブリッドはHVの一形式ではあるものの、一般的なハイブリッド(ストロングハイブリッド)とは異なり、エンジンを主要動力源として使用する。高電圧モーターは主に駆動時や加速時のアシスト、エアコンなど電装品への電力供給のみに徹することで、小型モーター1個と電池によるシンプルな仕組みを実現している。ホンダ〈7267〉やトヨタ〈7203〉が主力としているストロングハイブリッドに比べて燃費改善効果は劣る上、基本的にモーター単体で走行できないというデメリットはあるものの、従来のエンジン車に比べれば燃費はよく、低コストで導入しやすい。

 富士経済の調査でも、 2035年の48Vマイルドハイブリッド車の世界販売台数は、18年比58.4倍の1694万台に伸びると見ており、EVの需要にも迫る猛追を予測。とくにEUの環境規制などを背景に欧州で活気を見せており、ベンツやアウディなどが新車への積極搭載を相次いで発表したことでも注目されている。日本ではスズキ〈7269〉が新型コンパクトクロスオーバーSUVのクロスビーやワゴンRなどに積極的に展開している。

 では、どうして急にマイルドハイブリッド車への注目が高まっているのだろうか。

 その理由は、技術の向上によって、これまで12Vが主流だったマイルドハイブリッドの電圧が48Vへと引き上げられてきたことにある。供給電力が同じなら、電源電圧が倍になれば、電源回路などで生じる電力損失は1/4に低減できる。システムの効率化とモーターの高出力化が可能になり、燃費性能も格段に高まるのだ。EVやHVに比べて開発にかかる費用も期間も短く、ある程度の燃費改善も望めることとなった48Vマイルドハイブリッド車は、環境保全に対する早期対策として認められている。

 しかし、48Vマイルドハイブリッドにも大きなデメリットがある。それは電圧の変換回数が増えてしまうことだ。というのも、車に搭載されるマイコンなどのデジタルICは、微細化によって電源電圧が1Vや1.8V、2.5Vなどへ低下している。つまり、電圧が高まれば高まるほど、デジタルICが必要とする低い電圧に一気に変換することが難しくなってしまうのだ。段階的に電圧変換を実行すれば、そこには電力損失が発生する。せっかく電源電圧を高めて電力損失を1/4に減らしても、これでは意味がない。また、変換に要する構成部品も増加し、コストも実装面積も大きくなってしまう。

 しかし、この問題も日本の高度な技術によってすでに解決された。

 電子部品メーカーのローム〈6963〉は、電力変換の際の障害となっていたノイズに着目し、「回路設計」「レイアウト」「プロセス」、 3 つの先端アナログ技術を融合した同社独自の超高速パルス制御技術「Nano Pulse Control」を開発。電源ICにお ける世界最小スイッチングオン時間を達成したことで、48Vなどの高電圧から1Vなどの低電圧への電圧変換を1つの電源ICで可能にした。この技術は48Vの電源電圧が使用される産業機器などへの導入をはじめ、48Vマイルドハイブリッド車の普及を大きく前進させるものとして期待されている。

 発展途上国で拡大する自動車の需要を満たしつつ、CO2削減を進めるためにも、EVやHVなどよりも低価格で導入しやすいマイルドハイブリッドは最適だ。スズキをはじめ、普及価格帯の大衆車に強い日本の自動車メーカーや関連企業にとって、マイルドハイブリッドの普及は大きな活路となるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)