■世界最高水準の頭脳が積水ハウスの「プラットフォームハウス構想」に参画した
10月7日(米国東部時間)、積水ハウスはアメリカ・ケンブリッジにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)の医工学研究所(IMES)と共同研究を始めると発表した。目的は、住宅づくりを通じて日本のみならず世界の高齢化問題に対処することにある。
積水ハウスは1月にラスベガスで開催された「CES2019」で、「『わが家』を世界一幸せな場所にする」というビジョンの「プラットフォームハウス構想」を発表した。その第1弾は「家が健康をつくりだす」で、人生100年時代、住まい手が健康を維持したまま幸せに年を重ねられるよう、機能やサービスで住宅の新たな価値を提供しようとしている。
具体的には「急性疾患対応」「経時変化」「予防」の3つのサービスを提供できる住宅を目指しており、すでに国内で慶應義塾大学、産業技術総合研究所、日立製作所、NEC、コニカミノルタなどとパートナーシップを結んでいるが、新たに世界最高水準の頭脳が集まるマサチューセッツ工科大学(MIT)で、「医工連携(医学と工学の境界領域)」における数々のイノベーションを生み出している医工学研究所(IMES)が加わった。
MIT内に新たに設けられる多目的研究施設「リビング・ラボ」で積水ハウスとIMESの共同研究プログラム「The Sekisui House at MIT」を立ち上げ、複数年にわたる継続的なコラボレーションによって住宅における新たなイノベーションの創造を目指す。
積水ハウスの仲井嘉浩代表取締役社長は「この共同研究は当社の『家が健康をつくりだす』コンセプトを具現化する大きな第一歩であり、人生100年時代に世界が直面する社会課題を解決する、新たな住まいの価値を追求していく」とコメントしている。
■共同研究の中心的なプログラムは「早期発見システム」と「在宅健康モニタリング」
命にかかわる緊急性の高い疾患事故は屋外ではなく「家の中」で起きることが多い。たとえば脳卒中の年間発症者数約29万人のうち79%が自宅内で発症している。心筋梗塞の発症者約10万人のうち66%は自宅内での発症だった。脳卒中、心疾患、溺死、転倒、転落による家(自宅)での死亡者数は年間推計約7万人にのぼる。
そんな事態を防ぐ「急性疾患対応」が、積水ハウスとIMESの共同研究のプログラムの中心。具体的には「早期発見システム」と「在宅健康モニタリング」になる。
「早期発見システム」は「接触型」に比べ住まい手のストレスが少ない「非接触型」のセンシング技術を活用し、住宅内の「空間埋め込みセンサー」が人の脈拍数、呼吸数から異常を感知し、自動音声による問いかけを行う。それでも反応がなければ緊急通報センターに通報されてオペレーターが安否を確認。危険と判断すれば救急車の出動を要請する。
非接触の空間埋め込みセンサーは緊急対応だけでなく「在宅健康モニタリング」にも役立てられる。睡眠、呼吸、血圧などの日常のデータを蓄積してその「経時変化」を検出することで、高血圧、糖尿病、無呼吸症候群、不整脈のような高リスク性疾患の検出と予防対策がとれる可能性がある。
心臓専門医でハーバード大学医学部教授、IMESディレクターを務めるエラザー・エーデルマン博士は「日本で、そして世界でも急増している難問は、増加する高齢者の自宅での安全をいかに確保するかだ」と述べ、積水ハウスとの共同研究に期待をかける。
■臨床医も参加する重厚な研究体制がもたらすものは?
「早期発見システム」「在宅健康モニタリング」に必要なのは、工学分野では空間埋め込み型センサー、精度検証の標準化、住宅向けのアルゴリズム開発など数多い。住宅建築分野では生活と融和したセンサー組み込みの最適化やプライバシーへの配慮が課題になる。それに加え、医工学研究所のIMESは医学の研究や臨床と密接なつながりがあり、提携先病院の臨床医の参加が共同研究で威力を発揮するはず。仲井社長はそんな重厚な研究体制を「家が健康をつくりだすための“核”ができた」と表現している。
10月18日に東京で行われた共同記者会見のために来日した共同研究のキーパーソン、ブライアン・アンソニーMIT教授は「MITは世界にインパクトのある研究成果を提供することを使命としています。積水ハウスとの協力関係でもそれが可能になると考えます。プロジェクトを通じ、人々の健康に貢献できると確信しています」と述べた。
高齢化は近未来の世界の課題。65歳以上の高齢者は2000年、世界人口の約10%だったが、2050年には22%まで伸びる予測もある。積水ハウスにとって2020年は創業60周年を迎える節目の年で、その年にそんな高齢化社会特有のニーズに応え「人生100年時代の幸せ」をアシストできる「プラットフォームハウス」第1弾を発売する予定だ。