電子部品メーカーが19年振りのCMに込めた思い。 Official髭男dismを選んだ理由

2019年12月29日 09:31

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ローム株式会社が19年振りにテレビCMを放映することを発表し、若者たちを中心に話題を呼んでいる

 ローム株式会社〈6963〉が19年振りにテレビCMを放映することを発表し、若者たちを中心に話題を呼んでいる。ロームといえば、京都市に本社を構える電子部品メーカー。LSIやトランジスタ、ダイオード、LEDなどを中心に、車載や産業機器の分野で世界的にも知られるメーカーではあるが、一般の消費者向けではなく、主に企業を取引相手にする、いわゆるBtoB企業。そんなメーカーのCMに、若者たちがどうして興味を示すのだろうか。

 その理由は、今回のCMに採用された音楽にあるようだ。「Official髭男dism」。中高年には聞きなれない響きだろう。ともすれば、男性化粧品の新しいブランド名かとも思えるかもしれないが、これは今、若者たちの間で絶大な人気を誇るPOPバンドの名前なのだ。

 「Official髭男dism」は、2012年にボーカル兼ピアノを担当する藤原聡が当時、島根大学の軽音楽部で共に活動していた楢﨑誠と小笹大輔、そして松江高専にいた小笹匡希に声をかけて結成。インディーズでの活動を経て、2018年にインディーズのアーティストとしては異例の、フジテレビ系月9ドラマの「コンフィデンスマンJP」主題歌「ノーダウト」をリリースし、 ポニーキャニオンからメジャーデビューを果たした。 インディーズのアーティストが月9主題歌に起用されたのは初めてである上にBillboard Japan Hot 100で16週連続チャートインを記録し、一気にブレイク。2019年大晦日には「第70回NHK紅白歌合戦」にも初出場するなど、破竹の勢いだ。間違いなく、令和のミュージックシーンを代表するアーティストの一角だろう。

 今回のロームのCM「electric landscape」篇の映像は、山林や田園の自然風景、町や都市の街並みなど、人々の営みを俯瞰したマクロの風景と、半導体などが作り出す電子回路基板によるミクロの風景をリンクして見せている。「人が自然の一部だとすれば、人が創り出すものもまた、自然の一部にほかならない」という ナレーションが印象的であり、そこにOfficial髭男dismのインディーズ時代の代表曲の一つ「115万キロのフィルム」が使用されることで、さらに味わい深い情緒的な映像に仕上がっている。

 ロームがOfficial髭男dismの楽曲を使用したのは、何も彼らの人気にあやかろうとしたからではなさそうだ。同社は40年以上前から、オーディオ機器に向けた半導体・電子部品 の開発にも取組んでおり、音楽を通じて豊かな文化を育むための様々な貢献活動を行っていることでも知られている。

 「公益財団法人ロームミュージックファンデーション」と共に行う若い音楽家の支援や、文化の発信地「ロームシアター京都」で行う公演、冬の恒例行事となったロームイルミネーションでの音楽イベントなど、多岐にわたる音楽文化支援活動を行っているのだ。

 音楽に対して強いこだわりを持つロームが「Official髭男dism」の数ある楽曲の中でも最新のメジャー曲や書き下ろし曲ではなく、あえてインディーズ時代の「115万キロのフィルム」を起用したのは、そこにまっすぐに表現された人間愛や熱い想いが、CMに込めたメッセージと響き合い、情緒的な強さを引き出してくれると感じたからだという。

 人間が創り出すテクノロジーは急速に進歩を続けており、ともすれば地球の自然や環境、人間の生活そのものをも脅かしてしまいかねないほどの勢いだ。そんな最先端のテクノロジーを提供する会社だからこそ、質の高い製品を作るだけでなく、その先に、どうすれば豊かな世界を作っていけるかを真剣に考えていかなければならない。映像とナレーションで綴られる静かなCMの中に込められた、そんなロームの想いが、Official髭男dismの音楽とともに心に沁みてくるようだ。(編集担当:藤原伊織)