元検事総長ら検察OBらが15日、検察庁法改正案から、検事長ら上級検察官の役職定年延長を「内閣の判断でできる」とする部分の削除と東京高検・黒川弘務検事長の延長に『検察庁法改正の手続きを経ず、解釈変更の閣議決定のみで決定しているため、留任に法的根拠はない』と法治国家として『異常な状態が続いている』として、本来の法解釈、法的根拠に基づくあるべき姿に戻すよう、強く抗議する意見書を法務大臣に提出した。総理、法務大臣、自民党はこの動きの持つ意味を本当に重く受け止めるべき。
元検事長らが改正案に反対し、政府、与党に抗議、是正を求めるとともに、世論にも改正の断固反対を訴える今回の状況は、安保法制への道筋をつけるために、自民党も含め歴代政府が堅持してきた「憲法9条」(戦争の放棄)の集団的自衛権に関する解釈を、安倍晋三総理が内閣法制局長官の首を挿げ替え強行し、「一定条件の下、集団的自衛権の行使は容認される」と『解釈改憲』を強引に行った際、元法制局長官、元最高裁判事らが強い抗議や違憲とする声をあげた状況を彷彿させる。
このことは、今回の改正が「内閣が必要と認める一定の理由」で検察幹部の定年延長が認められることから、検察への政治介入に道を開くことにつながり、「政権の意に沿わない検察の動きを封じ込める」手段に使われかねない大きな問題を抱えていることを浮き彫りにしている。
ことの起こりは「法的根拠」を無視し、『特別法(この場合は検察庁法)は一般法(国家公務員法)に優先する』との法理も逸脱し、「官邸の門番」と揶揄する声も聞かれる黒川東京高検検事長の定年延長を無理やり行ったことにある。
検察庁法に規定のないものについては国家公務員法が適用されるが、検察官の定年については検察庁法に「定年は、検事総長は65歳、その他の検察官は63歳」と明記されている。「検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されない」とこれまでの国会答弁でも人事院事務総局が見解を示してきた。
安倍内閣は、にもかかわらず「解釈を変更した」とこれまでに確立されてきた解釈を覆し、まさに憲法9条解釈変更の時のように、強引に、黒川氏定年延長に正当性を持たせようとしている。それを合法にするために後付けするのが、今回の検察庁法改正条項。
しかも、野党が反対しにくいよう国家公務員法と一括提案という、日の丸と君が代の「国旗国歌法」制定時の手法で個別審議、個別採決を逃れようとする姑息な手段を用いている。
今回の改正案について、元検事総長らが訴える最も重要な部分を、コラムの締めに引用させていただき、世論に提起したい。
「時の政権の圧力によって、起訴に値する事件が不起訴とされたり、起訴に値しないような事件が起訴されるような事態が発生するようなことになれば、日本の刑事司法は、適正公平という基本理念を失って崩壊することになりかねない」。
その危険をはらんだ法案であることを訴えたい。「政府と検察による『国策捜査』への懸念も」(日本共産党・穀田恵二国対委員長)指摘されている。
総理の犯罪も捜査、逮捕できる検察。くしくも、「桜を見る会」をめぐる問題で総理の後援会がホテルでの夕食会で有権者に飲食代を提供した公選法違反などの疑いで安倍総理や後援会幹部を東京地検特捜部に告発する動きがあることを15日、共同通信が報じた。
「同様の動きは全国に広がっている」という。総理は利益供与を国会答弁で否定しているが、真相はどうなのか。「検察への政治関与の道をなくすべき」。「検察への政治介入は寸分なりともあってはならない」(立憲・安住淳国対委員長)。そのことの重要性が「桜を見る会」でもみてとれよう。(編集担当:森高龍二)