第68回電気科学技術奨励賞、受賞者発表。日本が誇る、電気科学技術の結晶

2020年12月13日 08:38

電気化学

11月25日、公益財団法人 電気科学技術奨励会主催「第68回電気科学技術奨励賞贈呈式」が開催され、17件、48名の電気科学技術奨励賞受賞者が表彰された。

 年末になると、様々な業界や分野で、その年の功績をたたえる表彰式や授賞式が催される。しかし、今年は新型コロナウイルスの影響で規模を縮小したり、オンラインで開催する式典も多いようだ。

 こんな状況下で無理に式典を開催する必要はないんじゃないかという声もあるようだが、こんな時だからこそ、優れたものを賞賛することは未来への希望をつなぐ大きな力になるのではないだろうか。また、今年はオンラインで一般公開されている式典も多いので、普段はあまり接点のない業界の動向を知る良い機会にもなるかもしれない。

 そんな中、11月25日に東京神田の学士会館では、公益財団法人 電気科学技術奨励会主催による「第68回電気科学技術奨励賞贈呈式」が開催された。

 本表彰は、電気科学技術に関する発明、改良、研究、教育などで優れた業績を挙げ、日本の諸産業の発展および国民生活の向上に寄与し、今後も引き続き顕著な成果の期待できる者に対して、年1回贈呈されるものだ。

 電気科学技術奨励会は、1951年に株式会社オーム社が設立したもので、科学技術庁(現・文部科学省)の指導に基づいて、 1962年に「財団法人オーム技術奨励会」として内閣総理大臣により設立認可され、その後、2012年に内閣府の認可を受け公益財団法人となった、業界でも歴史の古い団体だ。また、 科学技術の発展に関する顕著な功績があるにもかかわらず諸種の事情で他の団体や機関の表彰の陰に埋もれてしまうような功労者の発掘に努めているのも大きな特徴の一つである。派手さこそないものの、真摯に業界の発展に寄与してきた信頼ある表彰といえるだろう。

 第68回を迎えた今年は、多数の機関・団体から推薦された受賞候補者34件、88名の中から、最終審査委員会を経て、17件、48名の電気科学技術奨励賞受賞者を決定した。栄えある特選の文部科学大臣賞に輝いたのは、日本電信電話株式会社とNTTエレクトロニクス株式会社による「Beyond 100G光トランスポートシステムの開発と実用化」だった。今後ますます需要が増すであろうIoTや5Gモバイルなど、より高度で大きな通信容量を必要とするネットワークサービスに貢献する開発だという。

 また、電気科学技術奨励会会長賞には、 日立オートモティブシステムズ株式会社と株式会社日立製作所による「世界初の800V駆動電気自動車を実現するインバータ低ノイズ化技術」が選ばれた。今年、ドイツのポルシェが発売した新型EV「Taycan(タイカン)」で話題となった800Vの電気自動車。それに対応するインバーターを提供したのは日立グループだといわれている。電池電圧を800Vに高めることで、航続距離の飛躍的な延長と、充電時間の劇的な短縮が可能になる。まさに今後の電気自動車の発展のカギを握る技術だ。

 EVに関連した技術としては、今大きな話題となっているSiC(シリコンカーバイド)パワーデバイスについての受賞もあった。EVをはじめ、大電力を扱う機器において、システムの大幅な小型化や省エネ化ができる次世代パワーデバイスへの期待は大きい。世界に先駆けてSiC-MOSFETの量産化に成功したローム株式会社が今回、電気科学技術奨励賞を受賞したのは「パワーエレクトロニクスの事前設計を実現させる SiCパワーMOSFETの測定技術及び高精度デバイスモデルの開発」だ。

 SiCは、現在主流の半導体材料であるSi(シリコン)に比べて、高耐圧かつ低損失なパワーデバイスを実現することができることで注目されているが、これを使いこなすためには、デバイスモデルを用いた回路動作の事前検証が重要になる。ただ、SiCを採用する機器は大電力動作であるがために簡単に実験ができず「実際にモノをつくらないと動作性能がわからない。」ということがあった。こうした中、新たな測定手法の開発し、高精度モデルを用いたシミュレーションによって、より精度の高い事前設計を行うことが可能になるという。

 ここに挙げた技術、そして他の受賞したいずれの技術も、一般消費者である我々が直接触れたり、目にする機会はほとんどないだろう。しかし、これらの技術全てが、私たちの現在と未来をつなぎ、発展に導いてくれる大切なものであることは分かる。コロナ禍でも立ち止まることなく、技術を研鑽し続けている全ての技術者に称賛を贈りたい。(編集担当:藤原伊織)