政府が掲げた成長戦略の一つとして、2020年度から必修化された小学校のプログラミング教育。官庁や教育機関はもちろん、民間企業や団体も協力して、教材開発やデモ授業などが積極的に進められている。
必修化といっても「プログラミング」という教科が新たに設置されるわけではない。算数や理科などの既存の教科にプログラミングの要素が盛り込まれる形だ。また、各学校によって設備やICT環境などが異なるため、現段階では、取り組み方も各学校の裁量に任されているのが現状のようだ。
小学校のプログラミング教育で最も大切なのは、コンピューターの使い方ではなく、プログラミング的な思考を身に着け、論理的に考える力を養うことだ。これを早い段階から学ぶことで、今後のIT化やグローバルな社会にも柔軟に対応できるようになることが期待できる。
ところが、大きな問題がある。それは教員たちへの負担だ。小学校では多くの場合、担任一人でほとんどの教科を担当している。プログラミング教育に加え、英語と道徳の授業も2020年度から必修化された。しかも、ほとんどの教員が教員養成課程などでプログラミングを学んでいない。中には、PCも上手く扱えない教員もいるだろう。現場の混乱は想像に難くない。
そこで、この問題に対応すべく立ち上げられたのが「未来の学びコンソーシアム」だ。これはプログラミング教育の普及と促進を図るため、文部科学省、総務省、経済産業省の3省と全国の教育委員会、学校を中心に、民間企業やNPO団体などが加わり、官民一体となって進めている協働組織だ。
「未来の学びコンソーシアム」では、プログラミング教育に関する様々なコンテンツの開発や提供、学校で活用できる実践事例の紹介などを行っているが、その中の代表的な取り組みの一つとして、協力企業と連携した総合的な学習の時間、通称「みらプロ」を実施している。
「みらプロ2020」の実例としては、住宅メーカーの積水ハウス株式会社が12月16日に、つくば市立みどりの学園義務教育学校の生徒たちに「みんなの家!未来の家!」という総合的な学習時間を提供している。積水ハウスの見学施設「関東・住まいの夢工場」に同校の生徒たちが訪れ、住まいづくりにIT技術がどのように利用されているのかを、住宅の設計段階で顧客に住宅をプレゼンする「おうちで住まいづくり」のツールであるVR体験等を通して学習をした。その中で、ゲーム「マインクラフト」内の世界で自ら住宅や街づくりを行うことで「未来の家」へ学びを反映させるなど、様々なIT技術やテクノロジーが社会の課題解決を行っていることを学んだ。
また、iPhoneやiPadなどでもお馴染みの、Apple Japan, Inc.による「プログラミングの基礎を学んで、地域の課題を解決するアプリケーションをデザインしよう」の一環として、横浜市立荏田東第一小学校では5年生を対象に「人と人をつなぎ、笑顔がいっぱいえだきん商店会」を実施している。これは、地元の「えだきん商店会」にたくさんの人々が訪れて楽しい時間を過ごしてもらうため、Appleが開発したEveryoneCanCodeのレッスンを通して、iPadとSwift Playgroundsアプリケーションを使ってアプリケーション開発を目指すプログラムである。プログラミング的思考だけでなく、身のまわりにある問題に気づき、自分ごととして捉え、行動しようとする意識を芽生えさせるような総合学習授業となっている。
小学校のプログラミング教育の必修化には賛否両論がある。海外先進諸国に比べて、日本ではIT教育が遅れているという声もあれば、授業の煩雑化や教育現場の負担増を心配する声もある。しかし、「未来の学びコンソーシアム」で紹介されている「みらプロ」などの取り組みを見ていると、民間企業やNPO団体などが協力してくれているおかげで、内容もバラエティに富んでおり、単純にどれもこれも「楽しそう」だ。子どもたちが楽しみながら、プログラミング的思考や社会の仕組みを学べる取り組みが、今よりももっと増えてくれることを期待したい。(編集担当:藤原伊織)