2050年までに温室効果ガス排出ゼロは可能か? 先進企業が取り組む、最新の環境配慮型工場とは?

2021年01月17日 08:10

ローム・アポロ 筑後工場の新棟写真

ローム株式会社が今年1月 、福岡県の筑後工場に環境配慮型の新棟を竣工したと発表した

「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。」昨年10月、第九十九代内閣総理大臣に就任した菅義偉首相は、所信表明演説の中で脱炭素社会の実現を目指すことを宣言した。しかし、当然のことながら、目標を掲げるだけでは温室効果ガスの排出量をゼロにすることはできない。

 目標達成のために、日本は今、何をするべきか。

 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の試算によると、このまま何も対策が講じられなかった場合、2050年には全世界の二酸化炭素排出量は年間465億トンにも達するという。その一方で、省エネ対策や再生可能エネルギーの導入が進めば94%も抑制できると推計している。つまり、再生可能エネルギーの導入は、温室効果ガス削減の一丁目一番地なのだ。

 ところが、日本では現状、電力の8割を火力発電に頼っている。資源エネルギー庁の発表では、日本国内で1年間に発電されている電力量は2019年度実績で約1兆2000億kWh。この内、再生可能エネルギーで発電された電力の割合はわずか15%に過ぎない。そこで今、大規模な電力を消費する製造業を中心に、工場などで使う電力を100%再生可能エネルギー由来に切り替える動きが高まってきている。

 例えば、花王株式会社は、工場だけでなく、オフィスなども含めてグループ全体で2030年までに購入電力の全量を再生可能エネルギーに切り替える方針を示している。2019年末時点では購入電力の再生可能エネルギーの比率が、日本で50%、グローバル全体で31%に達しており、日本の4工場、欧州の全9工場、アメリカの1工場の計14工場において、購入電力の再生可能エネルギー比率は100%を達成しているという。

 また、最近の事例では、電子部品メーカーのローム株式会社が今年1月 、福岡県の筑後工場に環境配慮型の新棟を竣工したと発表した。新棟は、排熱を有効活用した高効率の空調設備や純水製造設備、LED照明の導入などで省エネルギー化に努めており、従来設備と比較してCO2排出量を20%(約7,000t分)低減しているほか、同施設で使用する電力は100%再生可能エネルギーでまかなわれるとしている。同社はさらに、ドイツにあるグループ会社工場も、次年度より再生可能エネルギー使用率100%で稼働予定だ。これによって、電気自動車や産業機器における省エネルギー化のキーデバイスとして期待されているという同社の製品、SiCパワーデバイスは、その主要な生産工程すら、すべて再生可能エネルギーを利用した環境配慮型の生産体制になるという。製品で省エネに貢献するだけでなく、そのモノづくりにおいても環境負荷を軽減しようということだろう。

 同じように、大和ハウス工業株式会社も昨年4月、同社の全国の事務所、施工現場、住宅展示場で再生可能エネルギー由来の電力の本格導入を開始するとともに、住宅業界としては初めて、工場の使用電力をまるごと再生可能エネルギー由来の電力に切り替えることを決定した。同社が全国で展開する9つの工場のうち、まずは新潟工場、中部工場、三重工場、奈良工場の 4工場において、昨年10月から順次、工場内で使用する電力を同社グループが運営・管理する施設で発電した再生可能エネルギーへの切り替えを進めており、エネルギーの自給自足を目指している。同社の試算では、4工場での切り替え電力量は約15,000MWh/年となり、CO2排出量を約7,400t/年削減できる見込みだ。

 その他にも、パナソニック株式会社やセブン&アイホールディングスなど、再生可能エネルギーの利用を積極的に推進する企業が増えており、再生可能エネルギー使用率100%で稼働する工場も続々と現れ始めている。この動きが拡がっていけば、日本の温室効果ガス削減は大幅に進むことができるだろう。2050年を待たずして、菅首相の宣言した目標を達成することもできるかもしれない。(編集担当:今井慎太郎)