コロナと半導体。今、半導体を取り巻く世界で何が起こっているのか

2021年04月18日 08:20

ローム0415

目覚ましい進化を遂げる半導体技術。ロームはGaN デバイスのゲート耐圧課題を解決し、基地局・データセンター向け電源の低消費電力化や小型化に貢献する技術を開発

 電気で動くありとあらゆるものには「半導体」が使われている。家電や自動車、大規模なインフラ設備から、スマホや腕時計のように携帯できる小さなものに至るまで、我々が文化的な生活を送るためには、もはや半導体の存在は欠かせない。ところが、そんな半導体をめぐる動きが近ごろやけに騒がしい。

 まず、今、大きなニュースになっているのが深刻な「半導体不足」だ。そもそも、家電や自動車の高機能化や電装化に加えて、モバイル機器やIoT機器の増加などで、じわじわと半導体需要が伸長していたところに、新型コロナウイルスのパンデミックが発生した。これにより、世界中で自粛生活や在宅ワークが一斉に始まり、生活スタイルの変化とともに需要も大きく変化することになる。日本でも、モバイルPCやWebカメラなどが一時在庫不足に陥ったのをはじめ、新しい生活スタイルを少しでも快適に過ごすために、より高性能な家電製品や設備を求める動きが活発化した。 幸い2020年前半は、コロナの影響で自動車の生産台数が減ったため、半導体市場全体の需給バランスはかろうじて保たれていた。ところが2020年後半から自動車生産が回復すると、在宅ワーク需要や5G需要なども重なり、一気に半導体の需給がひっ迫する事態となった。それに加えて、米国ではこの冬、南部のテキサス州を中心に記録的な寒波に見舞われ、半導体生産が次々と中断するなどの事態に陥った。

 そんな中、存在感を強めているのが中国と台湾だ。エレクトロニクス製造サプライチェーンの国際的な業界団体・SEMIの調べによると、2020年の半導体製造装置の世界販売高は過去最高の約712億ドル(約7兆7000億円)を記録。前年比19%増という大幅に拡大していることが分かった。さらに中国が初めて最大市場になったことも明らかにしている。

 また、ファウンドリー(半導体の受託製造)の世界シェアで55%を占める台湾積体電路製造(TSMC)を有する台湾の存在も大きくなっている。これまで下請け業者的なイメージの強かった台湾のファウンドリーだが、ここにきて立場が逆転。米国の半導体工業会・SIAも、ボストン・コンサルティング・グループと共同で発表したリポートの中で「台湾ファウンドリーの半導体製造が1年間停止したら、全世界のIT企業で4900億ドル規模の経済的損失が生じる」と分析しているほどだ。

 半導体の話題は需要と供給だけではない。半導体自体にも、大きな変化と進化が起こっている。

 半導体といえば、ICチップのようなものをイメージする人は多いと思うが、半導体とは、本来は導体と絶縁体の中間の電気伝導率をもつ「半分導体」の物質のことであり、一般的には、トランジスタやダイオードなどの素子単体や、CPUやメモリといった集積回路の総称として使われることが多い。

 また、その働きも多様で、「演算」や「記憶」などの働きをする半導体だけでなく、電気の「整流」「増幅」「スイッチング」などの働きを持つ半導体もある。その中で、電力を制御・変換するために使われ、高電圧・大電流を扱えるものはとくに「パワー半導体」とも呼ばれている。

 従来、パワー半導体は、ケイ素(シリコン/Si)を主原料としたものが主流だったが、機器の高機能化や小型化、環境への配慮など、世の中の様々な変化と発展に即した素材が求められるようになってきた。それが炭化ケイ素を半導体素材とする「SiCパワーデバイス」や、窒化ガリウムを使った「GaNパワーデバイス」だ。

 Siよりも大電力を扱うことができ、電力ロスが少ないSiCパワーデバイスは、太陽光発電やEV市場において採用が始まっており、EV普及のキーデバイスとして期待されている。日本の電子部品メーカーでは、ロームなどが力を入れて開発を進め、世界シェア2割を有している状況だ。一方、GaNパワーデバイスは、中電力分野での高周波動作に優れた半導体として、5G基地局やデータセンターなどの高速動作を行う機器における活用が期待されている。PCの電源アダプターに搭載され、従来よりもアダプターが小型になった例は有名かもしれない。しかしながら、駆動時に想定よりも大きな電圧がかかった場合の堅牢性に課題があり、 信頼性が懸念されていた。

 そんな中、 これまでSiCパワーデバイス業界をリードしてきたロームがその長年の課題を払拭する技術を開発し、GaNパワーデバイスの分野でも頭角を表し始めている。

 ロームは各種Siデバイスの開発・量産を進めるとともに、SiCだけでなく中耐圧領域での高周波動作に優れるGaNデバイスの開発も行ってきた。そして4月8日、同社独自の構造により、安全に使用できる定格電圧を一般的な6V から8V まで高めることに成功したと発表したのだ。これにより、より信頼性が求められる5G基地局やデータセンター向け電源の低消費電力化や小型化に貢献できるようになるという 。

 もちろん、ロームだけでなく世界中の様々な半導体企業がSiCパワーデバイスやGaNパワーデバイスなどの開発にしのぎを削っている。しかし、技術開発においてはロームをはじめとする日本の半導体企業が一歩進んでいると言えるのではないだろうか。半導体製造の市場では中国や台湾に後れをとっていても、技術力においては、日本はまだまだ負けていないのだ。(編集担当:藤原伊織)