日本ではピュアEVが普及しなかった ところが、急展開が始まりそうな背景とは?

2021年05月09日 09:11

TOYOTA bZ4X

トヨタが、2020年に日本市場向けに発売する軽自動車よりも小さい2人乗りの超小型ピュアEV(航続距離約100km、最高速度は60km/h)に次いで、「上海モーターショー」プレスデーにおいて世界初公開した、電動車のフルラインアップ化の第一弾の新EVシリーズ「TOYOTA bZ」コンセプト

 日本では純電動車であるピュアEVが、なかなか普及しない。理由はいくつかある。充電インフラの少なさ。都心ならともかく、地方の郊外地では、充電のためにEV販売店まで出かけなければならない。純EV広がらない訳は、日本の住宅事情もある。住居の4割がマンションなどの共同で、新たに充電設備の設置はハードルが高い。

 そこで、日産などは、単なる移動手段としてではなく、「動く蓄電池」として普及をめざす取り組みを進める。地方自治体と協働で災害時に非常電源に使う、太陽光発電などの電力を自動車に蓄電し、その電力を売るなどの試みだ。

 そんな日本のEV事情だが、物流業界から積極的なEV採用への取り組み始まりそうだ。佐川急便はこの4月、カーボンニュートラルの実現に向け、配送用の電気軽自動車のプロトタイプを公開した。現在約7200台を2030年度までにすべて、EVにしていく予定だ。

 同じようにセブン&アイ・ホールディングス傘下のセブン-イレブン・ジャパンが、2022年度以降に商品配送用のトラック全約6000台を環境配慮型トラックに切り替える。ハイブリッド車(HV)とクリーンディーゼル車を現在の約6割からほぼ全てに段階的に広げる。将来の実用化を視野に燃料電池(FC)トラックの配送実験も続け、サプライチェーンの環境対応を進める。

 また、トヨタ、日野、いすゞの3社は、商用車の脱炭素やCASE(つながる車、自動運転、シェアリング、電動化)対応で新たな協業を開始すると発表した。トヨタが80%、いすゞと日野が10%ずつ出資して新会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ」を4月に設立。いすゞと日野が保有するトラックの走行データを共有して物流効率化につなげるほか、トヨタの燃料電池車(FCV)の技術を生かし、中・小型トラックの分野でいすゞとの共同開発を進める。

 トヨタの2017年12月発表の電動化計画では、世界で販売するクルマの約半数、台数で約550万台を、2030年までに電動車両にするとしていた。内容はハイブリッド車(HV)とプラグインハイブリッド車(PHV)の合計で約450万台、完全なZEV(Zero Emission Vehicle)であるピュアEVとFCVの合計が約100万台だった。これを2025年に達成させるという。

 この計画達成に向けてトヨタは今後、新たな取り組みを進める。まず、世界で販売するEVに専用の開発手法を適用し、開発・生産効率を高める。そして、高効率で長寿命のリチウムイオン電池を、世界規模で安定的に調達する体制を作る。加えて、日本市場に向けて超小型EVを投入する。そして、先般の上海モーターショーでEVフルラインアップ化の第一弾のプロトタイプ「TOYOTA bZ」を発表したのである。

 ところで純EVだけでなく燃料電池車(FCV)やプラグイン・ハイブリッド(PHV)の普及でも課題となるのが高性能電池の供給だ。そこでEV用電池製造と、その原料確保に国内55社が連携した新団体「電池サプライチェーン協議会」が大型連休前に設立された。

 また、日産は電気自動車(EV)向け電池で、コバルトを使わない低価格品を2020年代半ばにも実用化すると、この4月に表明した。1回の充電で走れる距離を縮めることなくコストを下げる。コバルトはレアメタルで供給量が限られ、需要拡大で奪い合いになる懸念もあるため、今回の施策に打って出たわけだ。

 同時に日産と三菱自動車は協働で、2022年にも軽自動車サイズの電気自動車(EV)をリリースする計画だ。国や自治体の補助金を使った消費者の実質負担額は200万円以下で、ガソリン車に近い価格帯となる。軽自動車は車の国内保有の4割を占める。EVは2人乗りの超小型車を含めて廉価モデルの開発が相次いでおり、欧州や中国などと比べて遅れていた普及を後押ししそうだ。軽は日常の短距離移動での利用が見込まれるため、充電1回あたりの航続距離を200km程度に抑え電池の容量も減らす。

 こうした業界の動きを受けて、ヤマハ発動機は自動車メーカー向けにハイパーEVをはじめとした高出力帯のモビリティ用の業界最高クラスの出力密度を実現する電動モーターユニットを開発し、4月から試作開発受託を開始した。