先進運転支援システム「ADAS」は百年前から開発されていた? 自動車の知られざる進化の歴史と、現在と未来

2021年06月06日 09:07

ローム20210602

6月3日、ロームが車載カメラモジュールに最適な2つのICを発表。高度化する ADAS の低消費電力化、低EMI 化に貢献するソリューションを提供する。

自動車業界は今、百年に一度の大変革期を迎えていると言われている。その中心となっているのが、自動運転システムだ。中でも「自動運転レベル2」に分類される、事故を未然に防いだり運転の負荷を軽減したりするための先進運転支援システム「ADAS(Advanced driver-assistance systems)」 は、すでに多くの自家用車にも搭載されており、私たちの自動車ライフの身近なものになりつつある。夢の全自動運転車の実現まで、あと少しだ。

昭和の時代、全自動運転車は映画や小説、マンガなどでもたびたび登場し、まさに未来の乗り物の象徴の様に描かれてきた。しかし、その開発の歴史を紐解くと、昭和よりも前、大正時代にまでさかのぼるというから驚きだ。

 人が乗車して運転しない自動車が歴史上で初めて登場したといわれているのは、何と1921年、今からちょうど百年前のアメリカのオハイオ空軍基地だ。三輪トレーラーを無線で操縦するデモンストレーションが基地内で行われたという。その4年後には同じくアメリカのニューヨークで、無線での遠隔操作による自動車がブロードウェイを走破している。早い話が大きなラジコンなのだが、自動運転車の最初の一歩であることは間違いないだろう。

 ADASの代表的な機能の一つである走行中の運転をアシストしてくれるクルーズコントロールが登場したのは、1958年。クライスラーが同社の高級ブランド車であるインペリアルのオプションとして搭載したのが始まりだ。1958年といえば、日本では東京タワーが完成した年。ADASの歴史がいかに古いかが分かっていただけるのではないだろうか。そしてこの機能は、1960年代に入ってから高級車を中心に普及し始め、やがて、ブレーキとアクセルを自動で制御して先行する車との距離を一定に保つ「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」へと進化を遂げていくことになる。さらに日本ではホンダが、アダプティブクルーズコントロールに、カメラとセンサで道路の白線を認識してステアリングを自動制御する機能を加えた「オートパイロットシステム」の開発に成功。2003年に同機能を搭載したインスパイアを発売している。

 もちろん、ADASはクルーズコントロールだけではない。LiDAR やソナー、カメラなど、センシングの方法や検知する距離の異なるデバイスを組み合わせることで、駐車支援システムや衝突被害軽減ブレーキ、ドライバーの死角を補うブラインドスポットモニターなど、様々な機能で私たちの安全運転を支援してくれる。

 中でも、重要な役割を果たしているのが車載カメラだ。最新の自動車では、1台あたり 10個程度搭載されているといわれている。しかし、ADASの高度化に伴って、その個数は今後もさらに増加する傾向にあり、各カメラの性能向上も求められている。ところが、ここで問題になるのが電力量と搭載スペースだ。

 いくら便利になるからといっても、バッテリから供給できる電力量には限りがある。搭載スペースも同様だ。カメラをつけたいからといって、車体を大型化するわけにはいかない。ただでさえ、自動車内部では電装化が進み、電子部品が飛躍的に増えていることで、電力量も搭載スペースもひっ迫しているのだ。

 そこで期待されているのが、日本の電子部品メーカーの卓越した技術力だ。例えば、アナログ技術で世界的にも評価の高いローム社が6月3日、映像の伝送を行う SerDes IC「BU18xMxx-C」とカメラ向け PMIC(パワーマネジメントIC)「BD86852MUF-C」の2製品を発表している。

 今回発表されたSerDes IC「BU18xMxx-C」は、解像度に合わせた伝送レートの最適化によって、一般品に比べて27%もの低消費電力化を実現。また、放出する電磁ノイズが少ない特長と、画像のフリーズ状態を検出する固着検出機能も搭載。ADASのシステム全体における信頼性向上にも貢献する。一方、カメラ向けPMICの「BD86852MUF-C」は、実装面積を約41%削減することに成功。さらに熱集中を分散する回路構成によって発熱を抑制し、78.6%という高い変換効率を実現。車載カメラモジュールの小型化と低消費電力化に寄与するものとなっている。

 近い将来、レベル3以上の全自動運転車実現するのは間違いないだろう。しかし、その前にADASの進化と安全安心に向けた技術の向上がある。これから先も、いくら便利になっても、ドライバーや同乗者、通行者が少しでもヒヤリとする場面があってはならないのだ。今、世界中の自動車関連メーカー、電子部品メーカーがこぞって、全自動運転車の実現に向けた製品開発でしのぎを削っているが、機能と安全性の向上をセットで考えている点において、日本のメーカーは他国よりも優れているように思う。

 十年後、百年後の自動車の歴史の中に、日本のメーカーが名を連ねている未来に期待したいものだ。(編集担当:今井慎太郎)