京都の電子部品関連3社の2021年3月期決算は、コロナ禍を乗り越えて未来志向の積極投資へ

2021年05月23日 09:44

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京都に本社があるローム、村田製作所、日本電産、電子部品の「京都3社」は、新型コロナウイルスによる打撃から下半期には回復をみせ、本決算の業績は3社とも当初予想を上回った

 5月10日、ロームが決算発表を行い、主要電子部品企業の2021年3月期決算が出揃った。今回の決算は新型コロナウイルスの影響が大きいが、京都に本社がある村田製作所、日本電産と合わせた電子部品の「京都3社」は、新型コロナウイルスによる打撃から下半期には回復をみせ、本決算の業績は3社とも当初予想を上回った。国内の「リモートワーク」「巣ごもり」の定着など、トータルにみればコロナの悪影響をプラスの要素が上回っていたようだ。2022年3月期の業績見通しは各社ともEV、5Gなどの世界的成長で良好な事業環境が予測される中、設備投資でもM&Aでも未来志向の積極投資の姿勢を強めている。

■ロームは初の中期経営計画を発表し、事業の成長に向けた投資を加速

 ロームの2021年3月期本決算(日本基準)は、売上高こそ0.8%減の3598億円だったものの、営業利益は30.5%増の384億円、経常利益は13.7%増の406億円、当期純利益は44.4%増の370億円と、2ケタ増益決算だった。1株当たり当期純利益は128.58円増の376.24円。期末配当は前年同期と同じ75円、年間配当も前期と同じ150円に据え置いた。

 セグメント別では、LSIの売上高は前年同期比1.4%減、セグメント利益は25.2%増。自動車用では電源、各種ドライバICなどは減収でも、xEVのパワートレイン向けの絶縁ゲートドライバICなどは順調な増収。産業機器関連ではFA向けが増収。民生機器関連ではスマホ、AV向けは厳しいがアミューズメント向けが好調だった。半導体素子は下半期に盛り返し、売上高は2.4%増、セグメント利益は102.3%増とほぼ倍増している。トランジスタ、ダイオードはFA、民生機器向け、デバイスでは自動車向け、発光ダイオードは産業機器向け、半導体レーザーでは家電向けが好調だった。

 2022年3月期の通期業績見通しの売上高は前期比11.1%増の4000億円、営業利益は27.3%増の490億円、経常利益は18.0%増の480億円、当期純利益は8.1%減の340億円の増収、最終減益予想。予想1株当たり当期純利益は29.78円減の346.46円。予想中間配当、予想期末配当とも75円の据え置きで、予想年間配当は150円で前期比据え置きとなっている。

 ロームは、本決算発表と同時に5年間で累計約4000億円の戦略的な設備投資やM&Aなどの成長投資を行う中期経営計画を発表した。ロームにとっては初めての中計になる。「止まっていた成長を軌道に戻す5年間」(松本功社長)で、目標年度の2026年3月期は、21年3月期比約3割増の売上高4700億円の達成を目指す。その二本柱は「車載向け市場の取り込み」と「海外市場の取り込み」。車載向けではEV市場に向けて電力損失を減らせるSiC(炭化ケイ素)半導体の生産能力を高め、世界シェア30%奪取を目指す。海外市場ではSiC半導体やLSIの技術力を武器に海外顧客を積極的に開拓していく。松本社長は「好調な半導体市場は今後も伸びる。安定供給できるよう投資を拡大する」「2030年にはグローバルに認知される企業になることを目指す」と、未来志向の中計に臨む強い意欲をみせた。

■村田製作所は「5G」の需要を取り込み連続最高益を目指す

 村田製作所の2021年3月期本決算(米国基準)は、売上高は6.3%増の1兆6301億円、営業利益は23.7%増の3132億円で過去最高。税引前当期純利益は24.6%増の3164億円、当期純利益は29.5%増の2370億円という増収、2ケタ増益決算だった。1株当たり当期純利益は84.46円増の370.51円。期末配当は前年同期から10円増配の60円、年間配当は前期から18円増配の115円としている。

 電子部品セクターは上半期、特に4~6月期にコロナ禍で業績が悪化したが、下半期は中国、アメリカ、ヨーロッパで相次いで製造業が生産活動を再開し、需要が回復をみせた。国内ではリモートワークやオンライン教育のような「巣ごもり需要」によるパソコン向け需要、高速通信規格の5Gの立ち上がりによるモバイル基地局向け需要がともに好調。スマホ向けも樹脂多層基板、リチウムイオン二次電池は低迷したが、高周波モジュールは増収で、一時の停滞から下半期には回復軌道に戻りつつある。主力製品の積層セラミックコンデンサは5G向けをはじめ幅広い分野で需要が高まっており、パソコン向けでは他にインダクタ、コネクティビティモジュールも売上を伸ばしている。上半期に生産停止の影響を大きく受けた自動車向け部品需要も、下半期は世界的に回復をみせた。製品分野別の前期比売上高は、コンポーネントは8.7%増、モジュールは1.1%増。コンポーネント分野ではコンデンサが12.0%増と非常に好調で、圧電製品は微増(0.0%増)、その他コンポーネントは6.8%だった。

 2022年3月期の通期業績見通しの売上高は前期比1.8%増の1兆6600億円、営業利益は2.2%増の3200億円、税引前当期純利益は1.8%増の3220億円、当期純利益は1.2%増の2400億円で、手が痛い数字ながら増収増益予想で連続過去最高益を出しながら手堅い数字を出している。予想1株当たり当期純利益は前期比4.6円増の375.11円。予想中間配当は前年同期から5円増配の60円、予想期末配当は前年同期と同じ60円で据え置き。予想年間配当は前期比5円増配の120円となっている。

 自動車向け、スマホ向け電子部品の売上は今期、短期的な在庫調整を見込んでいるが、中・長期的には拡大が続くとみて積極投資を継続する。そのキーデバイスになるとみられるのがソニーから買収したリチウムイオン電池の技術を基盤とした次世代電池「全固体電池」で、今期中に滋賀県野洲市の野洲事業所に量産ラインを新設してウエアラブル端末向けに生産拡大を図る。南出雅範取締役は「上半期に生産を開始し、下半期に拡大する」と述べ、最終的に月産10万個ペースの生産体制を計画している。赤字のリチウムイオン電池事業も競争環境が悪化したスマホ向けから、ウエアラブル端末、電動工具など他の分野を開拓してそちらにシフトさせようとしている。

■今期2ケタ増益見通しの日本電産は構造改革なおも推進

 日本電産の2021年3月期本決算(国際会計基準/IFRS)は、売上高は5.4%増の1兆6180億円で過去最大、営業利益は47.4%増の1600億円、税引前利益は45.5%増の1529億円、当期利益は108.7%増の1219億円という増収、2ケタ以上増益、最終3ケタ増益の好決算だった。1株当たり当期利益は108.88円増の208.25円でほぼ倍増、期末配当は前年同期から30円減配の30円、年間配当は前期から55円減配の60円としたが、期初の2020年4月1日付けで1対2の株式分割を行っているので、実質的には1株当たり当期利益はほぼ横ばい、期末配当は据え置き、年間配当は5円増配となる。

 カテゴリー別では創業以来の「精密小型モータ」が、パソコン用ファンモーターが「巣ごもり需要」で好調で外部売上高4.6%増、営業利益48.3%増、「家電・商業・産業用」が外部売上高6.9%増、営業利益56.2%増と、上半期の停滞から下半期に利益を大きく伸ばしているが、最重点分野と位置づける「車載」は外部売上高こそオムロンオートモーティブエレクトロニクスの買収効果もあり7.5%増と中間期のマイナスから立ち直ったものの、営業利益は第1四半期の最悪期を脱して下半期に2ケタ増益と急回復しても通期では7.9%減でマイナスに終わっている。為替の影響が約1億円の減益要因になり、さらに需要急拡大を見込むトラクションモータシステム(E-Axle)の先行投資による開発コストが利益の足を引っ張った。

「精密小型モータ」「家電・商業・産業用」と同様に「機器装置」は外部売上高0.6%増、営業利益21.5%増、「電子・光学部品」は外部売上高0.7%増、営業利益97.3%増と利益面が大きく躍進しているが、これは「車載」の下半期の営業2ケタ増益と同じく「WPRプロジェクト」による全社的な原価改善、固定費適正化の成果が大きくあらわれている。外部環境がどう変化しようと、日本電産は構造改革にひたすら邁進し、それで得た利益を次世代の製品開発投資につぎ込むという経営を続けている。

 2022年3月期の通期業績見通しの売上高は前期比5.1%増の1兆7000億円、営業利益は12.5%増の1800億円、税引前利益は14.4%増の1750億円、当期利益は14.8%増の1400億円で、増収、2ケタ増益で過去最高更新を予想する。予想1株当たり当期利益は前期比30.77円増の239.02円。予想中間配当は前年同期と同じ30円、予想期末配当は前年同期と同じ30円、予想年間配当は前期と同じ60円で、それぞれ据え置きとなっている。

 代表権は維持しながら6月にCEO(最高経営責任者)を元日産自動車の関潤社長に譲る永守重信会長は決算説明会で「小型精密モーターは売上高を1兆円にもっていく」「必ずEVは価格競争に陥るが、モーターは我々のような専業メーカーの強みが出る。最後は性能と価格だ」「売上高10兆円を目指すと言っているが、M&Aで重要なのは企業価値つまり時価総額。売上高が1兆円でも時価総額が10兆円になればいい」と意欲満々に未来を熱く語る。一方、関社長はクールに「今年6~7月には半導体や資材の不足が解消し自動車生産が急回復する」と予測し、「EV用モーターの2025年の受注は300万台」と目標を50万台上積みした。永守氏の「即断即決」のDNAを受け継ぐCEOがまもなく誕生する。(編集担当:寺尾淳)