高速大容量規格5G通信の商用サービスが開始されて1年が経った。とはいえ、5Gの恩恵をひしひしと感じているという人は少ないかもしれない。それもそのはずで、各携帯キャリアが公開する5Gエリアマップによれば、5Gサービスを受けられるエリアはまだ非常に狭い。5Gを積極的に推し進めて、活用をはじめている中国などと比べると、日本はいささか寂しい出足の印象。残念ながら日本は未だ5G導入期なのだ。
だが、落ち込むのはまだ早い。総務省の情報通信白書によれば、今後5年間で全国の約98%をカバーする5G基地局の展開が計画されている。今後、従来の数十倍規模の基地局が設置される見通しで、そうなれば、日本でも5Gが急速に普及することになるだろう。
5Gは一般的なコミュニケーション用途だけではなく、IoTなどによる産業用途での活用も期待されている。多数の機器が大量のデータを同時に送受信することで、社会は劇的に変化する。例えば、話題の自動運転車の実現にも5G通信は欠かせない。より細かな情報を高速でやり取りすることで、交通量が多い道路や狭い道路などでも、自動運転の安全性が飛躍的に高まる。医療分野においても同様だ。技術的なサポートや、より詳細なデータ管理、医療ミスの減少にも貢献し、さらには医療ロボットなどと連動すれば遠隔地からの手術も容易になるだろう。5Gが普及する先には、こういった様々な未来の可能性が拡がっているのだ。
そんな5G普及の要となるのが基地局の存在だ。ここに日本の勝機がある。
基地局に搭載される技術の分野において、日本は中国の後塵を拝しているようにいわれることが多いが、そんなことはない。何よりも、実直に高品質な製品を開発し続けるモノづくりの姿勢がある。安全性や信頼性が重要視されるようになってきている中、そういった日本の付加価値の高い製品や、技術開発力は大きな強みであり、市場では魅力的に映るのではないだろうか。
具体例でいえば、国内大手の電子部品メーカー・ロームが発表した「低オン抵抗を実現した最新世代デュアルMOSFET」が挙げられる。同製品は、基地局装置や、FA機器などの冷却用ファンのモーター駆動に最適な24V入力に対応した、±40V/±60V耐圧のMOSFETが2つ入ったデュアル品だ。5G基地局や産業機器などのモーターの駆動用デバイスに使用されるMOSFETにはとくに、高耐圧が求められている上に、モーターのさらなる低消費電力化・小型化に向けて、低オン抵抗化と高速スイッチング動作への期待が高まっている。同社ではそんな市場の期待に応えるべく、業界トップクラスの低オン抵抗を実現し、さらに2つのデバイスを1パッケージ化したことで機器の小型化にも貢献する。この新製品は現在、国内のみならず、世界からも注目を集めているという。
この先の5G基地局の展開において、こういった日本の技術力が生み出した高品質な製品が躍進することは大いに期待できる。さらに今年の4月に日米の政府が発表した共同文書には「次世代通信分野」の研究開発に、両国合わせて45億ドル(約4900億円)を投資することが明記されている。「次世代通信分野」とは、5Gの次、6Gを指している。5Gでは遅れをとってしまったが、来るべき6G世代に向けて高い技術開発力を最大限発揮していけば充分、巻き返しは可能だ。(編集担当:今井慎太郎)