自動車業界では今、脱ガソリンに向けた動きが活発化している。その背景にあるのは、深刻化する地球温暖化問題だ。自動車などから排出されるCO2が地球温暖化が進む大きな要因の一つと考えられるため、世界の先進国ではすでに、ガソリン車やディーゼル車の販売禁止へ向けた動きが盛んになりつつある。自動車が基幹産業となっている日本も例外ではなく、2030年までに乗用車の新車販売比率に占める次世代自動車の割合を5~7割に上げるという目標を立てている。
脱ガソリンを目指す次世代自動車と呼ばれるものには、幾つかの種類がある。
バッテリーの電力だけでモーターを駆動する「EV(電気自動車)」、エンジンとモーターの2つの動力を使い分けて走る「HV(ハイブリット車)」、自宅や充電スタンドでも充電できる「PHV(プラグインハイブリット車)」、水素と酸素で発電してモーターを駆動する燃料電池車「FCV(燃料電池車)」、そして天然ガスを動力とする「CNG(圧縮天然ガス車)」などだ。
現状ではHVが先行して普及しており、中国を中心にPHVも堅調に拡大し続けているものの、長期的な視点で見ると、世界市場は今後、EVへと傾倒していくとみられている。
富士経済の予測でも、EVの世界市場は今後、各国の環境規制の強化や、それに伴うEV普及政策の本格化、充電インフラの整備、主要自動車メーカーが走行距離が延伸した新型EVを相次いで投入していることなどを背景に、欧州や中国を中心に拡大を続け、2035年にはEVの新車販売台数が20年比11倍となる2418万台にまで達するとみている。同社では同じく35年には次世代自動車市場全体で4000万台を見込んでいることと照らし合わせると、次世代自動車市場でEVは圧倒的なシェアを獲得するであろうことがわかる。
EVは脱ガソリンというだけでなく、部品点数も少なく、複雑なエンジンも不要という利点がある。構造が比較的シンプルなため、性能の良いモータとバッテリーさえあれば、新規参入企業も比較的簡単に車を製造することも可能だ。
ところが、そんなEV車にも不安要素はある。EVの動力となる「電気」をどうやって賄うのかということだ。世界中の車がEVになれば、確かに自動車自体としては化石燃料を使わなくて済むが、代わりに大量の電気が必要となる。CO2排出量が非常に少ないEVを動かす為に、化石燃料がどんどん燃やされて発電しているようでは本末転倒だ。化石燃料の消費先が変わっただけに過ぎない。
EVが環境問題の救世主になる為には、クリーンな発電の安定供給が欠かせない。また、EVをいかに少ない電力で走行させられるかも重要になってくるだろう。
もちろん、この難しい課題に対しては日本でも、国内自動車メーカーや自動車産業を支える様々な企業が状況改善に向けて動き始めている。
例えば、石油精製・販売大手のENEOSホールディングス株式会社では、石油の代替品となる「再生可能エネルギー由来の水素」と「CO2」を原料とした「再エネ合成燃料」製造技術の研究に取り組んでいる。製造する際のCO2は排気ガスや大気から回収するので、再エネ合成燃料を使用しても、地球のCO2濃度は理論上変わらない。石油と近い成分なので、精製や流通の設備をそのまま転用でき、実現すれば普及するまでに時間がかからないというのも魅力的だ。
また、そもそもEVの電力消費量を減らすための開発として、大手プラントメーカーの日立造船では、世界最大級の「全固体電池」を開発に成功している。数多くの次世代自動車で使われているリチウムイオン電池に比べ、燃えにくい上にエネルギー効率の高い全固体電池は、まさしく次世代の電池と言えるだろう。セ氏マイナス40度~プラス100度の厳しい環境でも動作可能な為、自動車に加え、特殊環境下の産業機械や宇宙用途も視野に入れている。現在商用化に向けて、連携企業を募っている段階だ。
さらに電子部品メーカーのロームは、低消費電力の車載部品として既に高い採用実績をほこるショットキーバリアダイオードのラインアップ拡充を発表した。
回路の整流や保護を目的に使用されるダイオードの中でも高効率なショットキーバリアダイオードは、低消費電力化が求められる各方面で採用が増加している。今回、ロームがラインアップを拡充したRBRシリーズは、高効率化が求められる車載機器のオンボードチャージャーに最適な製品だ。小型パッケージも追加され、より実装しやすいラインアップとなった。また、RBQシリーズは、高温環境下での安定動作に優れており、より高耐圧環境に対応できる製品を追加した。高温環境での動作が求められる車載のパワートレインや産機機器の高電圧電源などに適しているという。
両シリーズとも、低消費電力化のニーズに応えつつ、より幅広いアプリケーションでの整流、保護が可能となる。EV化が進むと半導体などの電子部品点数が増えることが見込まれる為、今後益々、需要が伸びそうだ。
脱ガソリンに向けた動きが活発化する自動車市場。自動車の性能や燃費などだけでなく、その動力となる電気を扱う技術力でも、日本が世界の市場をリードしていくことを期待したい。(編集担当:今井慎太郎)