新型コロナワクチンで注目される「超低温冷凍庫」

2021年11月28日 08:32

画・感染症

日本の医療技術、ものづくりの技術も加速度的に向上している。 もうひと踏ん張り、一丸となって乗り越えたいものだ

 欧州各地で新型コロナウイルスの感染者数が再び急増している中、日本政府が2021年11月22日に発表した日本国内の新型コロナワクチンの接種率は、1回目の接種が78.6%、2回目の接種が76.2%と、世界の国々と比較しても高水準であることが分かった。加えて、2回目接種を完了した日から、原則8か月以上経過した人を対象にした3回目の接種についても検討が始まっており、神戸市では22日、早くも3回目接種券の発送が開始されたという。

 そんな中、注目が集まっているのが「コールドチェーン」だ。コールドチェーンとは、医薬品や生鮮食品、生花などを生産から輸送、消費者に届くまでの過程で途切れることなく低温に保つ物流方式のこと。とくにワクチンは温度変化に敏感なものが多いため、超低温で保管されることが求められる。たとえば、新型コロナワクチンもファイザー社製の有効期限は、マイナス90℃~マイナス60℃の超低温冷凍庫で保管することが条件となる。ところがこれが厄介だ。もちろん、製造元や倉庫などでは温度の維持管理は徹底されているが、事業者とユーザーをつなぐ「ラストワンマイル」といわれる最後の区間においては、超低温を維持することは困難で、コストも高くなってしまうのだ。実際、新型コロナワクチンの接種が始まった当初は、冷凍庫の温度管理ミスや再冷凍してしまったために、ワクチンが廃棄されるようなケースも多発している。

 通常、短期保管用の冷凍庫は、単段圧縮冷凍サイクルを使用するのが一般的だ。しかし、これらの冷凍庫ではマイナス20℃程度にしか冷却できない。それ以上の冷却を必要とする場合には、2段圧縮機を使用した超低温冷凍庫の出番となる。

 しかし、この超低温冷凍庫には幾つかの課題がある。冷凍システムの根幹となるコンプレッサに通常用いられる誘導モータは、電力変換効率がかなり低く、熱が発生しやすいため、冷凍システムによる冷却作業の大部分が、システム自体から発生する熱の除去に費やされるという。超低温冷凍庫の場合は、異なる温度に応じた冷凍効果を得るため、搭載コンプレッサは誘導モータを2台標準装備する。つまり効率がさらに低下し、電力の面でも、熱/冷凍サイクルの面でも、非効率的なのだ。

 誘導モータの持つこれらの課題を解決するものとして、DC電圧で直接駆動し、高効率で自己発熱が少ないブラシレスDC(BLDC)モータの利用が検討されている。とはいえ、誘導モータに比べてコストが高く、設計や実装が複雑で高度な技術が求められるため、超低温冷凍庫のコンプレッサへのBLDCモータの採用は、まだ実用段階には遠い存在と思われていた。

 この課題に対し、迅速な対応を見せているのが日本の電子部品メーカー大手のロームだ。同社は、業界をリードするBLDCモータドライバソリューションを提供している企業。これまでにも新型エアコンに搭載されているコンプレッサ向けに、モータ制御に適用可能なDIPモジュールを含め、多くのBLDCモータソリューションを提供してきた。それらの経験と実績、技術力を応用することで、追加コストを改善メリットで相殺するような、優れたエネルギー効率を備えた超低温冷凍庫の構築に貢献するリファレンスデザインの提供が可能だという。超低温冷凍庫へのBLDCコンプレッサ搭載が実現すれば、電力効率の向上、自己発熱の低減、および力率改善から、省エネと機器の性能向上につながる。新型コロナワクチンだけでなく、今後の医療の発展や、未知のウイルスなどへの対策にも大きく貢献することになるだろう。

 収束しつつあるのかと安心しかかったのもつかの間、欧州で相次ぐ感染拡大のニュースを聞いて不安に思っている人も多いだろう。しかし、日本の医療技術、ものづくりの技術も加速度的に向上している。 もうひと踏ん張り、一丸となって乗り越えたいものだ。(編集担当:今井慎太郎)