安全保障政策 日米間の盾と矛の役割超えるな

2021年12月12日 08:43

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岸田文雄総理は所信表明演説や国会答弁で、我が国を取り巻く安全保障環境が急速に厳しさを増していると強調

 岸田文雄総理は所信表明演説や国会答弁で、我が国を取り巻く安全保障環境が急速に厳しさを増していると強調。「敵基地攻撃能力保持を含め検討する」と繰り返している。

 所信表明では「我が国を取り巻く安全保障環境はこれまで以上に急速に厳しさを増している。経済安全保障や宇宙、サイバーといった新しい領域、ミサイル技術の著しい向上、島嶼防衛。こうした課題に、国民の命と暮らしを守るため、いわゆる『敵基地攻撃能力も含め』あらゆる選択肢を排除せず、現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化する」と述べ「そのために、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を概ね1年をかけて策定する」と語った。

 憲法9条改憲論議と連動させたい狙いもうかがえる。危機感をあおることで一気呵成に「抑止力強化」という「軍備増強路線」と集団的自衛権行使の限定的枠組み拡大までを目指す「9条」改憲への土壌づくりの取り組みとも推察される動きだ。

 もともと日米安全保障条約の片務性を「双務」に持っていきたい安倍晋三元総理が辞任直前の昨年9月11日「敵基地攻撃能力保有などの安全保障政策の方針を、次期内閣で検討するように」と総理談話で発信し、それが現在に至っている経緯がある。

 安倍内閣の後を受けた菅義偉総理は公明党と友好的だったこともあり、これに配慮し、党内議論を見送ってきた。一方、岸田文雄内閣は自公と維新、維新にあゆみよる国民民主が10月の衆院選で議席を増やしたのを背景に「敵基地攻撃能力保有を含む安全保障政策の検討を進める」と鮮明に打ち出し始めた。

 「敵基地攻撃能力保有はミサイル防衛のための措置で、専守防衛に反しない」との意見もある。しかし、抑止力強化の名のもと、防衛装備拡充による対応では軍拡競争に身を投じるのみではないのか。

 防衛のための『必要最小限の装備』とはいかなるものか、「核」や「大陸間弾道弾」以外のものであれば、すべて保有が認められるものなのか。『専守防衛』の堅持と、それゆえの日米安全保障条約での「盾」と「矛」の日米の役割分担を、再確認することも必要だ。

 自民党内には「日本が力(敵基地攻撃能力)を持つことで、相手国が攻撃できないと思う。その装備を備えることこそが抑止力になるし、相手国と対等に話のできる立ち位置につける」という人もいる。

 しかし、日本はこれまでも平和憲法の下、武力を背景とする交渉ではなく『平和外交努力』によって、国際社会に向き合い、平和を維持し続けてきた。

 第2次安倍内閣以降、防衛装備に傾斜しすぎたきらいがある。今国会でも7000億円を超える補正が防衛装備などに追加され、今年度の予算総額は6兆円を超えることになった。安全保障政策の在り方を、国民的議論をもって考える時期にきているのではないか。

 改憲議論とも連動していく話。憲法9条(戦争の放棄規定)への自衛隊明記追加の意味、「必要な自衛のための実力」との表現の言い換えに危険性、加えて、「緊急事態条項」追加の意味。政府(首相)に行政権に加え、立法権までを持たせてしまう危険を国民は学ばなければならない。
 
 そして、決定的に順守するべきことのひとつに、日米同盟強化はあっても、「盾」と「矛」の日米の役割を超えることはあってはならない、ということ。国民は立ち位置を肝に銘じなければならない。(編集担当:森高龍二)