世の中が今、どんどん便利になっている。日本は他国に比べてデジタル化が遅れているという声もあるが、それでも10年前と比べると、公共サービスや交通、産業や一般的な生活シーンにおいても、自動化、デジタル化が驚くほど進んでいる。
ところが、システムがより高度になり、電子化が進めば進むほど、その内部に搭載される電子部品は増えていく一方だ。限られたスペースの中により多くの電子部品を詰め込むためには、より小型で性能の高いものが要求される。アプリケーションとしての調整事項も増え、開発にもより多くの時間がかかるという。電子部品は機器を安定して正常に動作させるための最も重要なもの。小さな電子部品一つでも、疎かには出来ない。部品点数を減らすべく、開発者側では、電子回路の安定化など、非常に多くの場面で活用されるコンデンサの使用数を低減したいという要望が増えているという。
そんな中、日本の電子部品メーカーのローム株式会社<6963>が、電源ICの理想的な動作を実現し、コンデンサ搭載数の削減も可能となる画期的な技術を開発したというニュースが今、業界関係者の中で大きな話題を呼んでいる。
同社は2022年2月3日、電源ICの応答性能(後段回路が動作した際の応答速度と電圧安定度)を極限まで追求可能にする高速負荷応答技術「QuiCur™」を確立したと発表した。同技術は、応答速度(制御系)と電圧安定度(補正系)の信号処理を高度に役割分担することで、従来電源ICの帰還回路が抱えていた課題を解決した。電源ICに搭載すれば、その帰還回路において、回路動作が不安定にならない極限までの応答性能を狙い通りに実現し、後段回路が動作した際の出力電圧の変化を最短で元に戻すことが出来るという。すると、「安定動作に必要な出力コンデンサの部品点数や基板実装面積を削減可能」「仕様変更時でも、簡単に期待する安定動作を実現可能」という大きな二つのメリットを享受することができる。さらに、同じくロームが開発した超安定制御技術「Nano Cap」と連携することで、安定制御領域をより高周波帯まで広げることも可能になるという。
製品の内部に搭載される電子部品のことにまで関心を寄せる一般ユーザーはほとんどいないかもしれないが、電子設計に携わる人にとっては、今回発表されたロームの新技術「QuiCur™」は、電源設計分野でこれまで常識とされてきた手間が不要になる革新的な技術らしい。部品点数と安定動作の両面から、電源回路設計工数の大幅削減に貢献するもので、今後の世の中の電子化を大きく進展させるものになるかもしれない。同社ではさらに、この技術を搭載した電源ICの製品化も進めているという。今後の展開が非常に楽しみだ。(編集担当:藤原伊織)