コロナ禍で自殺率が上昇したようだ。過去の趨勢から予測される自殺率の水準を実際の件数が上回っていることを横浜市立大学と慶応大学が確認したと発表した。自殺率は失業率と正の相関を示し、失業率1%の上昇は自殺件数を1000~2000件増加させると言われてきた。コロナ禍初期には、過度な経済活動の抑制は失業率を高め、自殺による死亡者を増加させるのではないかと懸念する声もあったが、実際にそれを裏付けるような統計分析が発表されたことになる。
3月30日、横浜市立大学と慶応大学が「新型コロナ禍による自殺の増加を確認 ~失業率と連動し、若年女性で顕著~」というレポートを公表した。横浜市大附属病院・化学療法センター、堀田信之センター長と慶応大医学部・精神・神経科学教室・森口翔助教の共同研究グループは厚生労働省の死亡統計データ(人口動態調査)を解析、その結果、2020年度の人口10万人当たりの自殺件数は、09年度から19年度までの実績に基づく予測値より男性で17%、女性で31%増加していることを確認した。20代女性では72%もの増加だ。また、自殺による死亡の増加は同時期の失業率と連動しているとし、レポートでは「この結果は、新型コロナ禍の影響で、失業率が増加し、社会経済基盤の弱い若年女性を中心に自殺が増加している可能性を示唆」していると指摘している。
しかし、失業率の増加はコロナ禍になってからではなく、消費税増税、2週連続の台風、暖冬など消費下押し要因が続き景気後退が強く意識された19年末から生じており、コロナ禍での経済活動の自粛のみでは説明できない。また、女性の自殺率が大きく期待値から乖離したのは20年後半のみで、この時期は人気女優など芸能人の自殺が相次いだことなども有り、こうした要因も若い女性での自殺率を押し上げたとも考えられる。レポートでも「近年の自殺者数の増加における間接的要因として、新型コロナ禍におけるさまざまな事象が考えられる中、失業率の増加との連動の可能性を確認」したとし、自殺増加の要因は多様だが、やはり経済活動自粛に伴う失業との相関が強いという見方だ。
レポートは「本研究の結果から、感染対策と合わせて適切な経済政策を行うことにより、自殺者数の増加が抑制されるのではないかと示唆される」としている。(なお、本研究成果は、3月30日に英文医学誌「JAMA Open Network」に掲載されている)。(編集担当:久保田雄城)