環境意識の高まりから、木造建築への関心が世界的に高まっている。木造建築は古くから我々日本人の暮らしを支えてきた。木の温もりや香りは、鉄やコンクリートにはない安らぎと心地よさをもたらしてくれるが、木造のメリットはそれだけではない。 木材の断熱性能はコンクリートに比べて10倍以上。しかも、木材は湿度が高い時には湿気を吸収し、乾燥すると湿気を吐き出すという調整機能を持っているので、高温多湿の日本の気候に適している。さらに木造建築は森林を保全の役割もある。
日本は、国土の半分以上が森林で覆われている。緑が多いのは良いことだが、現在、森林の高齢化が問題になっている。樹齢を重ねた木はCO2の吸収量が少なくなってしまう。計画的な伐採や適切な植林など、適切な育成管理のもとで森林を循環させて若返らせ、伐採した木材を有効利用することは、環境貢献にもつながるのだ。
一方、鉄やコンクリートの建物に比べるとコストが高く、耐久性や耐震性能にも不安があるのも木造建築だ。ところが、これらのデメリットも最新の木造建築技術や金物などの発展によって解消されつつある。一般的な住宅だけでなく、ビルやホールなどの中大規模建築で最近、木造が流行っているのはそのためだろう。世界的な都市化の傾向に伴い、8?20階建ての高層住宅や多目的ビルの需要が高まっている中、米国では基準の改正が行われ、18階建てまでの木造建築が可能となった。コストと耐久性、耐震性能の不安が解消されるのならば、今後、中大規模建築でも木造の採用が進むだろう。
そんな中、アメリカで大変興味深い実験が実施されようとしている。それが世界初の10階建木造ビル振動実験「NHERI TallWood Project」だ。米国国立科学財団(NSF)が資金提供し、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)が有する世界最大級の試験装置で実施されるこの実験は、CLTなどを使った10階建ての試験体を使うもので、高層の木造建築物の耐震設計手法の開発と検証を行うという。日本からは、木造注文住宅を手がけるアキュラホームグループが参画することを発表している。同社は「キリンさんと暮らせる家」というユニークなテレビCMでも話題になった、30坪で30帖の無柱空間を実現する「超空間の家 Neo」など、これまでの木造住宅の常識を覆すような画期的で斬新な商品開発とともに、業界で初めて実物大の倒壊実験を行うなど、自由なデザインと安全性を両立することに注力している木造住宅メーカーだ。
現在、世界で最も高い木造建築はノルウェー内陸部の町ブルミュンダルにあるウッドホテル「ミョーストーネ」だといわれている。地元出身の事業者が地元の木材を使って建築した地産地消の木造ビルで、18階建、85mの高さを誇る。「NHERI TallWood Project」の実験は今年10月頃に実施される予定だが、この実験のデータなどを活用し、近い将来、さらに高層の木造建築も誕生するかもしれない。(編集担当:藤原伊織)