新型コロナウイルスの蔓延は、社会を大きく変えた。ニューノーマルという言葉が流行しているように、消毒やマスクだけではなく、働き方や人との付き合い方、生き方そのものにいたるまで、コロナ以前の常識や慣習が通用しなくなっていることも多い。とくに家庭での過ごし方や、住まいのあり方について、コロナ禍を機に深く考えるようになった人は増えているようだ。
そんな中、「住まい手が参加する住まいと住環境づくりの意味と実践」研究会(住まい手参加研究会)が主催するシンポジウムが、東京都文京区のすまい・るホールで6月28日に開催された。同シンポジウムはオンラインでも同時中継され、多くの参加者と視聴者を集めており、この話題に対する世間の関心の高さがうかがわれる。
住まい手参加研究会は、木造注文住宅を手掛ける住宅メーカーのアキュラホームグループの住生活研究所が中心となり、座長を務める東京大学大学院特任教授の松村秀一氏や、長岡市総合政策アドバイザーの水流潤太郎氏、法政大学デザイン工学部建築学科教授の岩佐明彦氏、駒沢女子大学人間総合学群住空間デザイン学類専任講師の山崎陽菜氏、そして国土交通省で住宅や建築関係の仕事に携わったのち、株式会社アキュラホームに入社して「アキュラホーム住生活研究所」を設立した異例の経歴を持つ伊藤圭子氏らが、住まい手が住まいづくりに参加することを契機とした多様化する価値観やニーズを調査することで、入居後の満足感の向上、さらには住宅地管理とコミュニティの醸造にまで応用するべく発足した、まさに住環境のプロ集団だ。
3年ぶりの開催となった同研究会の今回のシンポジウムでは、「住まいづくりを楽しむ時代へ」というテーマの下、各登壇者らがそれぞれの視点による調査や研究から、多彩な意見を述べた。
まず、最初に登壇したアキュラホームの伊藤氏は、コロナ禍でシンポジウムが延期された期間に、住まい方だけでなく、生き方や考え方、働き方にどんな大転換(パラダイムシフト)が起こったかについて、様々な専門家から聞いた話をもとに、氏の私見を述べた。また、東京から人口が移動していることや、コロナ禍以降、住宅のリビング面積や家事スペースが拡大していることなどをデータで解説し、これからの時代、他人に流されるのではなく、自分らしく生きるべきだとの考えを示し、そのために暮らしのベースとなる家は生き方にも大きく影響するとまとめた。
次に登壇した、法政大学の岩佐教授は「つくることとつながることのサバイバル」と題し、コロナ禍を機にソロキャンプブームが過熱している背景から、それが示唆する現代の人たちが求める生き方や暮らし方について紐解き、駒沢女子大の山崎氏は、共働き世代の家事や育児の分担、協働についてのデータから、現代社会の家庭が抱える問題点や、世代ごとに求められている住まいの意味、働き方が自由になると住まいや暮らしはどう変化していくのかについてまで、興味深い話を展開した。
それぞれの家庭において、それぞれの暮らし方やリズムがあり、同じ家庭でも、世代が移り変われば、楽しみ方や求めるものも変わってくる。コロナ禍で、あらためてマイホームの重要さを感じるようになった今、より楽しい暮らしや住まいについて考えてみるいい機会なのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)