車載ディスプレイの需要が急増する中、日本の電子部品メーカーが業界で唯一のICを開発

2022年08月28日 09:57

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ロームが開発した、車載マルチディスプレイ向けSerDes IC「BU18xx82-M」。映像伝送経路のシンプル化を実現するとともに、フルHD対応品では業界で唯一、End to Endのデータ監視機能を搭載

近年、車載ディスプレイの需要が急速に伸びている。一昔前までは、車の中のディスプレイといえばカーナビやカーオーディオくらいのものだった。しかし、デザイン性を重視するEVの普及もあって、HUD(ヘッドアップディスプレイ)や電子ミラーなど、走行に関わる表示機器が必須装備になりつつあり、今後も複数の車載ディスプレイを搭載する自動車が増えることが予想されている。

 富士経済が6月16日に発表した市場調査結果によると、車載ディスプレイパネルの世界市場は2021年から2026年までの年平均成長率は4.4%と高い伸びが見込まれ、 2026年には 2021年比123.8%の12323百万ドルに達すると予測している。また、それに伴って車載ディスプレイ用構成部材の市場でも拡大が予想される。一時落ち込んでいた自動車の生産台数も2022年は回復の兆しがみられるうえ、ディスプレイの搭載数の増加、大型化などにより部材の使用量が増えていることが主な要因だ。さらにはフロントガラスにナビゲーションやADASのアラートなどを表示するAR HUDの開発が進んでいることで、HUD用ミラーや新規部材の投入や採用増が見込まれることもあり、車載ディスプレイ用構成部材の市場でも、2026年には2021年比49.1%増の868百万ドルと高い伸びを予測している。

 しかし、その一方で安全面への懸念も広がっている。自動車1台あたりのディスプレイ搭載数が増加することで映像伝送経路も複雑化し、システムコストや故障リスクも増大するからだ。もしも電子ミラーの映像が固着したり、クラスターパネルのチェックランプアイコンが点灯しなかったりすれば、命にかかわる重大事故にも繋がりかねない。車載ディスプレイ市場のさらなる発展のためには、安全性の向上と映像伝送経路のシンプル化が課題だ。

 日本の車載電子部品メーカーの中でも、この課題に積極的に取り組んでいるのがローム株式会社だ。同社はこれまでにも、データの高速伝送を目的として通信方式の変換を行うために対で使う2つのIC、SerDes IC(シリアライザ・デシリアライザ)の開発に注力しており、2021年6月には低消費電力・低ノイズを特長とする車載カメラモジュール向けSerDes IC「BU18xMxx-C」の販売を開始し、業界でも注目されている。そんな同社が7月21日、車載マルチディスプレイ向けSerDes ICの新製品を発表した。新製品は、同社SerDes ICの特長である低消費電力・低ノイズ性能を受け継いでいるのはもちろんのこと、一般的なSerDes ICが映像伝送するためにシリアライザとデシリアライザをペアで接続する必要があるのに対し、デシリアライザをデイジーチェーン接続可能にしたことで、シリアライザ1つで複数経路に映像伝送が可能となっている。これにより、コネクタやケーブルを削減できるため、映像伝送経路のシンプル化を実現。アプリケーションのシステムコストや故障リスク低減に貢献する。また、フルHD対応のSerDes ICとしては業界で唯一、End to End(SoCからディスプレイまで)で映像データが正しく伝送されているかをCRC(巡回冗長検査)値の比較により監視する機能を搭載。アプリケーションの機能安全にも貢献するものとなっている。また、車載信頼性規格AEC-Q100にも準拠しており、車載アプリケーションに必要な信頼性を確保しているほか、シリアライザの方は、入力インタフェースに関してOpenLDI及びMIPI-DSI をサポートしているので、幅広いSoCに対応することが可能だ。

 近年の自動車は電子化や電動化、自動化が進み、どんどん便利で快適になっている。しかし、その一方で、小さな部品ひとつにでもトラブルが起これば、命を脅かす大事故に繋がる危険性も大きく膨らんでいる。車内の環境やデザイン、燃費性能、地球環境への負荷などももちろん大事だが、最も重要なことは、安全な乗り物であることだ。今後、映像伝送経路の複雑化がさらに進むとみられる世界の次世代車載ディスプレイ市場で、ロームをはじめとする日本の電子部品メーカーの、安全で安心できる電子部品がより重要性を増してくるだろう。(編集担当:藤原伊織)