2022年、この年は日本の自動車が電気自動車(EV)にシフトし、一里塚を打ち建てた1年として日本自動車史に記載されるかも知れない。その転換点と云えるのはトヨタがSUBARUと共同開発したSUVのEV「bZ4X」を発売した5月だ。SUBARUもその姉妹車「ソルテラ」を市場に投入した。そして同じ月、日産と三菱自が共同開発した、軽自動車EVトールワゴン「SAKURA」と「eKクロスEV」を発表。6月に販売を開始した。
カレンダーを若干戻すと、ホンダが2020年に初代シビックを思わせる「Honda e」を、マツダが2021年に「MX-30 EV MODEL」を発売している。さらに今年になって、ホンダがソニーGと共同出資してEV専業会社を立ち上げた。つまり、他業種からの参入を含めて、スズキとダイハツを除く日本メーカーの量産EVが出揃ったというわけだ。
欧州の自動車メーカーも日本市場でEVを矢継ぎ早に展開してきた。コンパクトカーからセダン、SUV、スポーツまで出揃い、百花繚乱・群雄割拠という状況だ。
なかでもドイツ勢は多くのEVをラインアップする。メルセデス・ベンツはSUVの「EQA」を筆頭に「EQB」「EQC」の3車種を日本で販売。BMWはコンパクトカーの「i3」、SUVの「iX」「iX3」、セダンの「i4」「i7」を展開している。アウディは「e-tron」シリーズで日本市場を狙い、ポルシェはEVの4ドアスポーツ「タイカン」を投入した。
ステランティス連合のコンパクトEVも賑やかだ。プジョーは「e-208」「e-2008」、シトロエンは「E-C4 ELECTRIC」、そしてフィアットは「500e」を展開する。
米国EV専業メーカー大手のテスラは業界1位の存在感を放つ。「モデルS」「モデル3」「モデルX」に加え、2022年6月にはSUVの「モデルY」の受注を日本で開始した。
新型EVを足掛かりに日本市場を狙っているのがアジア勢だ。韓国・現代自動車(Hyundai)の「IONIQ 5」は、その一例だ。中国・比亜迪(BYD)も「ATTO 3」を含む3車種を日本市場へ投入する予定だ。
だが、現実の販売台数を見ると、EVのシェアはそれほど大きくないことが分かる。むしろ少数派と云える販売状況だ。
日本自動車販売協会連合会(自販連)の「燃料別販売台数(登録車)」によると、2022年1月から7月におけるEVの国内販売台数は1万6921台。軽自動車を除いた自動車(登録車)の販売台数(129万7504台)の1.3%にすぎない。“売れている”とは決して云えない数字だ。
そんな状況下、軽自動車EVが市場に受け入れられている。全国軽自動車協会連合会(全軽自協)によると、日産のサクラは発表後の3カ月で5172台、三菱自のeKクロスEVは978台売れた。日産の場合は、登録車EVと同等以上のペースでSAKURAが売れている。
では、欧州EVシェアで先行する欧州製EVはどのよう車種が売れているのか。欧州連合(EU)に加盟する27カ国の市場を、英JATO Dynamics(JATO)の調査によると、2022年6月の欧州における新車販売台数は105万4807台。そのうち、EVのシェアは約12%だった。
売れているEVは何か? JATOによると、欧州における2022年6月の販売ランキングでは、テスラの新型SUVモデルYがトップ(1万6687台)だった。次いで欧州で売れているEVは、フィアットの500e(7269台)とプジョーのe-208(5626台)の2車種だ。欧州で人気のコンパクトなBセグのシティカーだ。この2車種は日本でも販売されている。
この2台の諸元を比較すると、ほぼ同等のクルマだと分かる。航続距離は300~400km程度で、価格は450万円前後だ。また、見た目や装備はガソリン車と違いがほぼない。しかも、電気自動車らしく低速トルクが太く、街乗りでもキビキビ走る。つまり、2車種ともEVではあるが、クルマとしてはオーソドックスな“成り立ち・つくり”で、これが売れ筋となったポイントのひとつだろう。
では、日本で売れているEVとはどのような車種なのか。代表となるのはやはり日産のSAKURAだろう。バッテリー容量は20kWhで、1回の充電で航続距離180km(WLTCモード)。価格239万9100円(税込)からという設定だ。
航続距離は明らかに短いが、価格は同社EVのリーフ(370.92万円~480.59万円)に較べて130万円~200万円ほど安い。この価格差は圧倒的だ。結局、高スペックでなくても、必要十分なニーズに合致した価格のEVはそれなりに売れることを証明したわけだ。日本でEVが売れるための大切なポイントはここにあると云える。
このように、売れているクルマを見ると、大切なのは主要諸元に応じた価格であることが分かってくる。いわゆる費用対効果だ。「EVだから」と云い訳する前に、商品として求められるコストパフォーマンスで顧客の要求に応えているのか? 当たり前だが、その辺りが大切なのだろう。(編集担当:吉田恒)