ネズミの一種であるラットも人間の作った音楽に合わせてダンスするようだ。東大の研究グループが、音楽に合わせラットがビート同期運動することを発見、その脳生理学的な特性を研究し、その結果が米国の査読付き科学ジャーナル誌に掲載された。人間は社会的な協働によって文明を築いてきたが、そこでは他の個体との同調が重要になる。その意味で音楽やダンスの起源となる「ビート同期」運動は社会的な結束を強めるために重要な役割を担ってきたと考えられる。ビート同期の進化のメカニズムは、チャールズ・ダーウィンをも悩ませた古くからの謎だったようだが、コミュニケーションの基盤となる、この現象の謎について脳科学的な解明が始まったようだ。
東京大学大学院情報理工学系研究科の高橋宏知准教授らの研究グループは、ラットが人間と同じように音楽のビートに合わせて身体を動かすことを発見、ラットの脳活動を調べた結果、聴覚野で音楽のテンポに合わせビート同期する活動を見いだした。また、数理モデルを用いてビート同期が、脳の順応特性(外界刺激に対し脳が慣れ、反応を減少させていく特性)である可能性も説明している。ラットがビート同期運動を起こすのは、人間がビートを取りやすいテンポの120から140BPM(拍/秒)で、ラットの聴覚野の神経活動も120~140 BPMのビートに対して同期しやすいことが明らかとされた。つまり、人間の音楽のテンポ・リズムの多くがラットの聴覚野の動特性(ダイナミクス)と合致しているということだ。
これらの結果から研究チームは「ビート同期運動は、身体特性ではなく、脳の動特性(ダイナミクス)から生じる」という仮説を支持している。この研究では、ビート同期運動のメカニズムとして身体原因説と脳原因説という二つの仮説から検証している。身体原因説としては人間の歩行テンポが1分間に約120歩であるため、音楽の多くが120~140BPMであるという仮説だが、この説では歩行テンポなど身体特性の違うラットでの同期運動を説明できない。脳の聴覚野での神経リズム特性が音楽への同期と関連すると考えればラットの同期運動も説明できると言うのが本研究の結論だ。
研究グループは「今後、リズムに加え、旋律やハーモニーといった音楽の他の特徴でも、脳のダイナミクスとの関連性の解明に取り組む予定」としている。(本研究成果は2022年11月11日に米国科学雑誌「Science Advances」に掲載)。(編集担当:久保田雄城)