1970年代のCTスキャンの登場は臨床医療に革命をもたらした。慶応大病院の医師によればCTスキャンの登場で「藪医者がいなくなった」と言う。診断における画像の存在は「素人でも判断できる」ものにするからだ。時代はさらに進化しコンピュータが統計学的に判断しAI全自動画像診断の時代に入ったようだ。
1月7日、東京大学のグループと機械学習の先進企業グルーヴノーツが「人工知能を用いた医療画像と診療情報の統合による高精度な疾患画像判別モデルの開発」に成功したことを発表した。画像と数値など異なる種類のデータを同時に学習可能なAIアルゴリズムを用いて腹部超音波検査画像と診療情報を統合する新しい肝腫瘤の疾患画像判別モデルが開発された。従来の画像診断モデルは画像のみを学習させるものであったが、このシステムは画像情報に診療情報を統合することによって判別モデルの精度を飛躍的に向上させることを可能にした。
今回のシステムは慢性肝炎、肝硬変患者から肝癌を早期発見するためのものとして開発されたものだが、現在最も普及している腹部超音波検査では、発見された腫瘤が悪性の腫瘤か良性の腫瘤であるかの質的な鑑別ができず、これを識別するため造影剤を使用したCTやMRIなどによる血行動態的な評価が必要となる。腫瘤の質的な診断が困難であるのは超音波検査を用いた画像は画像の客観的な定量化が困難なためである。
そこで今回用いられた技法が、画像の定量化を行う方法として近年注目されているマルチモーダルによる深層学習だ。腹部超音波検査画像のみで客観的な定量化が可能になれば超音波検査単独で質的な識別が可能となり、CTやMRI検査が不要となり、その際の被爆や医療費の削減に繋げることが可能だ。機械学習で解析すべき情報の種類は画像、数値、音声など多種類に及ぶのが一般的で、それ故に時間がかかる。そこで研究グループは画像と数値など異なる種類のデータを同時に学習することが可能な「マルチモーダル深層学習」の技術を用いて超音波画像に診療情報を統合し同時処理すれば疾患画像の質的な判別が可能となる。
この分野で「マルチモーダル深層学習」を用いたのはこれが初めてだ。この「マルチモーダル深層学習」によって画像のみを用いた従来のAIモデルに比べ飛躍的に診断能力を向上させることに成功した。研究グループによれば本モデルに用いられた手法は「医療のさまざまな分野にも応用が可能であり、他分野への応用も期待される」としている。(編集担当:久保田雄城)