「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(憲法9条)「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」(9条2項)
岸田内閣が16日閣議決定した「敵基地攻撃能力(反撃能力)」を含む国家安全保障関連3文書とこれに基づく防衛力整備計画は憲法条項の精神、規定から乖離があまりに大きくないか。通常国会での徹底議論を期待する。
岸田総理は16日の記者会見で「外交には裏付けとなる防衛力が必要。防衛力の強化は外交における説得力にもつながる」と言い放った。敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有することが外交上「説得力を高める」という考え。
「敵基地攻撃能力」を備えることが外交の説得力を強化するという姿勢は、憲法が禁じる『武力による威嚇』を背景にしようとする姿勢に通じないか。行きつく先は「核保有」だ。
周辺国からは懸念の声があがっている。9条を裏付けるこれまでの外交姿勢と明らかに大きな違いが見える。日本の外交官にも戸惑いがあるだろう。
国是とする「専守防衛」「必要最小限の防衛装備」と今回の政府の閣議決定と裏付けていくための予算確保。「憲法にかかわる重大事案」を国会審議なく、時の政府(内閣)が「閣議決定」で走り出して良いはずはない。「国会不要ということか」との投稿もネットに上がる。
安倍政権の「功罪」の「罪悪」の側面がそのまま岸田政権でも利用された。それは安倍政権が内閣法制局長官の首を挿げ替え、2014年7月に「解釈改憲」を行って閣議決定、集団的自衛権の行使を一部で容認したやり方だ。
これに基づき安倍内閣は安保法制を翌年9月に制定、17年には「自衛隊」を憲法に盛り込む考えを表明し、「敵基地攻撃能力の保有、米国と核を共有する議論」まで提唱していた。
岸田総理はロシアによるウクライナ侵略を追い風に敵基地攻撃能力保有を是とする安保3文書を早々に閣議決定し「今後5年間で43兆円の防衛力整備計画を実施する。2027年度には抜本的に強化された防衛力と補完する取組みを合わせ『GDP(国内総生産)の2パーセント』の予算を確保する」などと発表した。
会見では「3文書とそれに基づく安全保障政策は戦後の安全保障政策を大きく転換するもの」と自ら語った。
総理は「もちろん日本国憲法、国際法、国内法の範囲内での対応であることは言うまでもありません。非核3原則や専守防衛の堅持、平和国家としての日本の歩みは今後とも不変です。こうした点について、透明性を持って国民に説明するのみならず、関係国にもよく説明し、理解してもらう努力を続けてまいります」とアピールした。
しかし「必要最小限の防衛力装備」とは何か。岸田総理は「保持する防衛力は『自衛のための必要最小限のものに限る』など、これは憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢というものであり、我が国の防衛の基本的な指針であり、今後も変わらない。反撃能力についても、この考え方に則っている」(12月16日、記者会見で)と説明した。
米国製の巡行ミサイル「トマホーク」の保有は憲法の許容範囲なのか。また「反撃の判断」に関して岸田総理は「先制攻撃は国際法違反。よって『相手国の攻撃着手』は論理上は大変重要。(しかし)着手の見極めはいろいろな学説があり、国によってもいろいろな扱いがある。この辺は大変難しい課題だ。その中にあっても、日本は国際法をしっかり守ってまいりますということを申し上げているわけで、その範囲内で日本が対応できるような体制を具体的につくっていかなければならないと思っている。それ以上具体的な対応について申し上げることは安全保障の機微に触れることであり、私の立場からは控えなければならないと思っております」などと説明しているようで、最重要な点を全く会見で説明しなかった。
専守防衛と言いながら相手国内の基地を攻撃できる装備を備え、どの時点で「相手国の攻撃着手」と判断するのかも説明せず、防衛費は米国、中国に次ぐ、世界3位の大国にすることを平然と語る。
非核3原則は堅持するとしているが、タカ派議員や前統合幕僚長の河野克俊氏らは日本の領土・領海内に米国の核兵器を配備し共有する議論もタブー視せずに議論すべきだなどと故安倍晋三前総理と同じ発想をしている。
「聞く耳を持つ」岸田総理がこうした意見に流されないのか、防衛力強化は外交における説得力につながるとする発想からは、「抑止力強化」を理由に核共有までつながりそうな「なし崩し」の危機に晒されることになった。
「反撃能力という防衛装備による抑止力」ではなく「外交努力による日本とのゆるぎない信頼関係構築での抑止力高揚」こそ、真剣に考えるべき時であり、これに向き合う姿勢が強く求められる。「反撃能力」という名の武力に頼る無能な外交はあってはならない。(編集担当:森高龍二)