日本では戦後、数多くの薬害事故・訴訟が起こっており、日本国民の新薬・ワクチンに対する不安感・抵抗感は強いと思われてきた。しかし、新型コロナワクチンの接種では、ワクチンの安全性・有効性に関し国民の強い不安感が表明されていたにもかかわらず、欧米諸国と比べても迅速に接種が進み、短期間で高い接種率に達した。この過程で日本国民の意識はどのように変化したのであろうか。東大などの調査によると、SNSでの個人的な体験の共有がワクチン接種に対する安心感の醸成に寄与したようだ。
12月23日、東大と国立情報学研などの研究チームが、新型コロナワクチンをめぐる人々の話題・関心の変化を分析した結果レポートを公表している。東京大学大学院新領域創成科学研究科の小林亮太准教授らの共同研究チームは、2021年1月から10月につぶやかれた新型コロナワクチンについての1億以上のツイートを分析した。その結果、21年6月の職域接種の開始を境に、ワクチンの有効性や安全性など社会的トピックに関するツイートの割合が減り、接種の予定や報告、自身の副反応など個人的事柄に関するツイートの割合が増えていることを発見、ここから「Twitterによる個人的な体験の共有がワクチン接種に対する安心感の醸成に寄与した可能性」があるとしている。
分析によると、ワクチン接種開始前の21年1月のツイート割合は、「個人的な事柄」約30%、「ニュース」約30%、「政治」約25%、「陰謀論とユーモア」約15%とツイートの内容は分散していた。しかし、職域接種が始まった6月以降ではワクチン接種の予定、接種後の体調や副反応など個人的事柄に関するツイートが急増し、10月には個人的な事柄に関するツイートは「ワクチン」を含むツイート全体の約70%にまでに達している。ちなみに、陰謀論関連のキーワードが含まれるツイートはわずか6%で、しかもジョークであるものも少なくなかったようだ。
個人的事柄のツイートが急増した要因としては、医療従事者の接種開始(2月)、高齢者の接種開始(4月)、職域接種開始(6月)、東京オリンピック(7月)があげられているが、中でも職域接種と東京オリンピックが強い影響(統計的に有意)を与えたようだ。専門家の解説に加え、人々の個人的体験の共有がワクチンへの不安感の払拭と接種の円滑化を生み出したと言える。(本研究成果は、2022年12月22日に「Journal of Medical Internet Research」のオンライン版で公開されている)。(編集担当:久保田雄城)